土壁の家から見た「道峰山」 

 彼と会うのは、本当に久しぶりだ。暫しお互いの近況報告をした後に、彼が表紙に『ソウル・イヤギ(ソウルの話)』と書かれた本を差し出した。

 「現役を引退した2年前から『随筆』を習い始めたんですが、ソウル市が『随筆』を募集し700余りの応募作の中から私の作品が“最優秀賞”に選ばれました」

 ページを捲ると、ソウル市長の『発刊の辞』に続いて『最優秀賞:トダムチプ・エソ・ポン・トボンサン(土壁の家から見た道峰山)』の表題と彼の顔写真が現れた。

 「30年以上前に田舎からソウルに出て来て、韓国の歴史を抱え悠々と流れる漢江(ハンガン)と、荒々しくも気高い岩肌の道峰山を見て心が震えたものです」。

 「昔、長い坂を登った所にある壁を土で固めただけの粗末な家に住んでいました。高所で昼間は水が出ないため、深夜に何百メートルも下にある“水汲み場”まで行くのですが、街灯もない坂道を水を一杯に入れたバケツを持って何往復もするのは男の私にでさえ重労働でした。雨が降ると泥濘となり更に大変なのですが、妻は『貴方は仕事があるのだから…』と毎晩水汲みに出掛けてくれました。私の人生の中で一番苦しい時代でしたが、塗り土が剥き出しの壁に開けられた小さな窓から見える道峰山を眺め、『何時かは良いことがある』と心の中で叫んだものです」

 1年後に転居しシャワーを浴びた時の感激は言葉では言い表せない、と笑った。

 「その時、土壁の家から見た道峰山は、永遠に忘れることが出来ない」

 『第5回 ソウル・イヤギ』の“最優秀作品”はそう結ばれていた。

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