「ソンオ」と「ハンチ」 

 車に乗ると、ラジオから軽快なピアノ曲が流れていた。

 クラシック・ファンに限らず広く親しまれているシューベルトの「鱒」だったが、音楽が終わると男性アナウンサーが「シューベルトの“スンオ”でした」と紹介した。

 『エッ、スンオ?。鱒は“ソンオ”だった筈だが…』と思ったものの自信がないので辞書をひくと確かに“ソンオ”と書かれており、“スンオ”は鯔(ボラ)の事だった。

 地下にあるレコード店でも、ジャケットに「スンオ」と書かれたCDが置いてあった。

 元来が狩猟民族だからなのだろうか、韓国人は海洋民族の日本人とは異なり魚介類の名前に関しては随分と無頓着な気がする。

 例えば、韓国で食べる烏賊の種類に“オジンオ(スルメイカ)”と“ハンチ(ヤリイカ)”そして“プルトン・コルトゥギ(ホタルイカ)”がある。ところが“プルトン”は“燃差しの燈芯”、“コルトゥギ”は“飯蛸”を意味し、文字通り解釈すれば蛸の一種となってしまう。実際、知人の韓国人に尋ねると「あれは蛸の一種ですよ」と断言した。

 数年前、某企業の部長と食事をした時「今日のイカは美味しいですよ」と説明されたのが“ハンチ”との初めての出会いだった。食事中、彼が「“オジンオ”は足が10本だが“ハンチ”は特別なイカなので足は8本」と言うので「イカの足は10本でしょう」と反論したら「市場で見たから間違いない。だから特別なのだ」と全く譲らない。

 だんだん険悪になりかけたので「日本にないイカなのだろう」と私が折れたのだが、彼が市場で見たのは“足をもがれたヤリイカ”だと今でも思っている。

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