朝鮮日報の日本版等でお読みになりご存知の方もいらっしゃると思いますが、現在韓国では、「一陣会」と呼ばれる高校・中学生の不良グル-プが学校を超えてインタ-ネットでつながり巨大化し、色々な問題を起こしています。一度イジメにあうと転校してもすぐメ-ルで転校先の一陣会のメンバ-に連絡が行き、転校先でもイジメから逃れられず不登校になり引きこもってしまう不幸な子供も多く発生しているといいます。しかし、一方教師達の中には、自分の責任となるので、いじめや暴力行為を見ても見ぬふりをする教師も多いそうです。

この問題に対して、韓国政府は、警察官OBの配置、監視カメラの設置、密告した先生に報奨金を出すなどという、力で抑える方針を出していますが、この方針はかえって問題の解決を遅らせてしまうことになるでしょう。力で押さえつければ、現在学校内でおさまっている子供達が夜の街に出て行くことになり、日本のように暴力組織とつながり麻薬・売春など凶悪化していく一方で、イジメはさらに陰湿となり自殺が増えていくことになると思われます。

 

「夜回り先生」こと水谷修先生は、13年間、毎日のように夜回りをして夜の街に沈んでしまった5000人以上の子供達と対話してきました。その活動は「夜回り先生」(水谷修著 サンクチュアリ出版)という本となって出版され、40万部を超えるベストセラ-となるとともにNHK・TBSでドキュメンタリ-やドラマが制作されるなど大きな反響がありました。また、この一年間で彼のところに届いたメ-ルは実に12万通にも達し、そのほとんどが「死にたい」という内容のものだと聞いています。

私は、現在日韓合弁の出版社の社長をしていますが、つい3年ほど前まで富士ゼロックスに勤務しておりました。12年ほど前、同社の海外留学制度で韓国に来ましたが、2年程前に現在の仕事で再度韓国に住むようになり、その時に、昔に比べ子供たちを取り巻く環境が大きく変わっていることに気づきました。そんな時に「夜回り先生」という本と出合い、少し韓国では早いかも知れないが、韓国が日本のようにならないようにと言う思いで今年2月に翻訳出版をしました。

韓国の青少年を取り巻く環境はまだ日本に比べ健康なので、それほど反響は無いだろうと思っていましたが、すぐKBSからドキュメンタリ-を製作したいという申し出があり、3/3に1時間の特番として放送されると、「とにかく涙が止まらなかった」「久しぶりに心から泣いた」「こんな日本人がいるんだ」「大変感動した」「韓国にもこんな先生がいらっしゃればうれしい」などと大変大きな反響がありました。予想に反して発売1ヶ月で教保文庫総合8位になり、月間出庫部数も5万部を超えました。

 

こんな状況の真っ只中の3/28から4/2まで水谷先生が韓国に来られました。事前に先生が来られるということで、新聞社やテレビ局の取材要請が殺到していましたが、時期を同じくして竹島問題が日増しに激しくなり、いくつかの取材がキャンセルとなり、また講演会申し込みのキャンセルも相次ぎましたが、結局、無事に講演会2回、学校訪問2校、KBSやEBSなどのTV局や多くの新聞・雑誌社から取材を受けました。

講演会は韓国の文化・観光部や青少年関連の財団法人などと一緒に主催したので竹島問題があってもそれほど心配はしておりませんでしたが、やはり当日まで不安で、講演会の主催を申し出たことを後悔もしました。しかし、当日はキャンセル以上の多くの方達が押しかけてくださり、立ち見がでるほどの盛況であったとともに、先生のお話に多くの方がすすり泣き、やはり主催してよかったと関係省庁の方に感謝いたしました。

この講演会で先生は、現在韓国は大変危ない時期にあること、どんな子供でもイジメをしたくて生まれてくる子供はおらず、心無い大人達のためそうなってしまった被害者であること、力で抑えることは意味がないこと、罪を犯した子はどんなことがあっても罪を償わせるとともにもしその原因が虐待など親の責任だったり、イジメを放置した教師の責任であればそれら大人にも罪を償わせなくてはいけないこと、一陣会を単になくすのではなく、何故一陣会が生まれたのか、その原因を解決する必要性と有効な方法を説明されました。先生の言葉は多くの人のこころを打ち、現在多くのメディアで先生の考えが紹介されるようになり、色々な場で議論が深まっているようで嬉しい限りです。

 

今回の水谷先生の韓国に与えた影響は、読者への感動、教育関係者への啓蒙という意味で本当に大きな影響を与えただけではなく、竹島問題でゆれている韓国人に対して日本人の良いイメ-ジを与えたという意味でも大変良かったと考えていますが、もうひとつ韓国で注目を浴びた大きな理由が、日本からの直接投資により出版された本であるということでした。

出版業界はどの国でも国内だけの活動にとどまっている傾向が強く、合弁会社などの設立もあまりありません。(日本では1社、韓国では2社)また、他国とのビジネスは主に翻訳権の販売と印税の徴収という形で行われていますが、普通日本の本を韓国で出版するときの翻訳権は、1冊15万円から20万円程度と大変安く、ベストセラ-になって印税収入が沢山入ってこない限りは、あまり利益にならないので、単にプラスアルファとして考えられてきました。

 

当社は、著者や出版社が単に版権を販売するのではなく、可能性があるものについては国境を越えて投資できる環境(ブックファンドと呼んでいます)を整え、まず日韓間の出版業界の架け橋として機能しながら来年は米国と中国を含めて直接投資できる環境を整えようとしています。

今回の翻訳出版は、日本の出版社が直接投資して韓国で出版した最初の本として、出版前から何度か新聞で紹介されてきましたので、「夜回り先生」のベストセラ-を見て、韓国の出版社から日本で直接投資して出版したいのですがという多くの問い合わせがきています。(ちなみに日本からの投資は約500万円、出版2ヶ月現在の純利益は1000万円程度)。

今まで韓国には良い本が沢山あるにもかかわらず、日本の出版社があまり出版に積極的でなかったために、ほとんど出版されてきませんでした。当社の日本側の親会社は英治出版(エイジと読みます、エイチ出版という会社があるそうなので念のため)といい「マッキンゼ-式仕事術」などのベストセラ-などで知られていますが、ビジネス書を中心に出版してまいりました。しかし、今後は韓国の出版社に日本市場への門戸を開くとともに、韓国のビジネス書はもちろんですが、文学、童話なども日本人に紹介していきたいと考えています。

 

その意味で、今回の水谷先生の訪韓は、文化交流の推進という意味でも大変大きな役割を果たしたといえるでしょう。
今後、水谷先生は積極的に韓国に来られ政府関係者や教育関係者と会ってアドバイスしていかれることになると思いますが、韓国を愛する日本人として、是非韓国の青少年問題が日本のようにまで悪化しないことを願って止みません。

最後になりましたが、水谷先生の講演会に駆けつけてくださった多くの日本人(70人ぐらいだと推測しています)と竹島問題で難しい時期に誠意と熱意を持って講演会や学校、インタビュ-に対してお話いただいた水谷先生にこの場をお借りして感謝したいと思います。
ありがとうございました。