韓国横河電機株式会社  帯刀 楯夫

最近は小綺麗なレストランが韓国の至る所にある。特にソウルのおしゃれな店は高級感すら感じる。勿論筆頭は韓国料理、続いて日本、中国、イタリア、ドイツ、タイ料理など様々である。私の食体験ではイタリアが最も本場らしく、美味しい。イタリアは韓国と緯度も同じ上に、半島という立地条件も似ているとか。確かに唐辛子やニンニクを沢山使うのも共通しているし、気候風土、喜怒哀楽の激しい民族性も近いものがある。
 
韓国料理は近頃の日本では大変なブームだ。観光客の韓国旅行の目的は先ず焼肉であり、韓国料理である。観光客のツアールートは定番があり、路地裏の食堂には行かない。殆どが表通りの所謂名前が売れている店である。そこは夕食時間帯ともなると日本人で埋め尽くされ、まるで日本にある韓国料理の店と化する。

ソウルは今や大都会である。首都圏の人口密度では世界でもベスト3とか。当然、車は溢れる程であり、広い道路であるにも拘わらず朝夕の渋滞はすさまじい。これだけ人が多いと食堂は無数にある。特に地元の食堂などの昼食時の準備は早くから始まり、店の前の歩道では仕入れた新鮮な野菜の仕訳け、水洗いなど活気のある光景がそこらじゅうで見られる。ここで見られるのが韓国を代表する元気で強いアジュマ(おばさん)である。オフィス街で有名なソウル市庁周辺には多くのサラリーマン、OLがおり、昼食時は路地裏の小さな食堂までが満員となる。そこでの活気はそのままアジュマの威勢の良さに表われる。注文を受けてからの一連の作業は食器の音と共にリズム感がある。日本では注文されたものだけを上げ下げすればそれで良い。しかし、韓国では所謂付きだし(例えばキムチ、季節の野菜、スープなど)が多く、それだけでも飯を食えるほどだ。それだけに、食器は多く、洗う手間も多い。おまけに付きだしはお代わりが自由で、アジュマに追加注文すれば躊躇無く持ってくる。消費者(お客)にとってはあり難いサービスである。心のゆとり、豊かさ、大胆、大らか、気前の良さ、お客様本位など全ての表現が当てはまる。正に元気の源は食堂にある。

休日に市庁街の周辺を歩いた。休日のしかも昼時間であったが人出はなかった。もっとも東京の大手町辺りでも休日は人が少ない。全く同じことだ。歩いている内にムギョドンと云うナクチ(韓国にいるタコの種類)料理の店が集まる一角に出た。このナクチ料理は
赤い唐辛子の粉に葱とナクチを入れて煮たもので、これだけを専門に食べさせる。ナクチのぶつ切りであるが、何とも柔らかく、辛く、美味い。そこにも元気な店のアジュマが4~5人おり、食材の準備をしながら大きな声で喋り捲っている。お客がいても関係無い。
ただ、手は休んでいない。喋っていてもお客への対応は極めて機敏である。韓国にはマシュケジュセヨ(美味しくお召し上がり下さい)と言う良い言葉がある。アジュマは注文されたものを出す時に必ずこの言葉を発する。気持ちの良いものだ。
この手の大衆的な店は大抵請求書は無い。テーブルに番号が付いており、その番号に合わせてレジにノートがある。注文品がテーブル別に記入されている。注文を受けたアジュマはレジのアジュマに叫んで伝える。お客はレジに行けばそこで計算される。

冬のオンドル部屋での鍋料理は格別である。外は零下であっても内は28度以上ある。床から温かいので幸せ感一杯である。日本でいえば座敷でのテーブル席になるが、アジュマの部屋への出入りが面白い。アルミの盆に料理を載せて運んでくるが、大抵の場合、スリッパは揃えて入らない。歩く姿がそのままスリッパの形になっている。日本では出る時を考え、後ろ向きに入る。どちらが効率的かは何とも云えない。しかし、見た目は悪いが、元気の良い悪ガキのようだ。お客も揃えて入る習慣は無い。その場合は店のアジュマが靴を整理し出易い向きに揃える。これで50%合格である。

韓国の女性は情に厚い。日本のように事務的な言動はあまりない。仮にその食堂の女将さんに気に入られたら、料理のサービスは大変なものだ。他のお客の手前など関係無い。こちらが断りたい位に品数が増える。あり難いことだが申し訳無い気持ちになる。ここを
日本から来た客の接待に使おうものなら、何か女将と出来ているのではと想像されても仕方がない。それ程、情が深く、心やさしい。

確かに韓国は焼肉店が多い。しかし、韓国人の若い男女は豚か鳥の焼肉屋に良く行く。高いから牛の焼肉は庶民的ではなくなってきたのだ。豚の焼肉は安くて、量もあり結構美味い。脂の焦げ目が何とも云えず味わい深い。しかも、有名なチンロ(焼酎)はこれに良く合う。若いサラリーマン、デートの男女のメニュとしてはこれに勝るもの無しだ。ただ、煙の物凄さには参る。背広は完全に臭いを染み込ませ、翌日になっても消えることはない。髪の毛はベタベタで、私などシャンプー無しでは眠れない。それでも美味しいから懲りずにまた行く。これが韓国の焼肉の魅力である。

ここでは元気な活力の源は食堂で作られると云っても過言ではない。
上司や会社の悪口を言い合う場所として、今日も韓国の食堂は元気な夜を迎える。