在大韓民国日本国大使館 岡田誠司

私はソウルに赴任して約1年半になりますが、天気の良い週末には韓国の友人とともに、ソウル郊外のすばらしい山並みを眺めながら空を飛んでいます。韓国でも愛好家の多いパラグライダーという、あまりなじみのないスカイスポーツについて紹介します。

パラグライダーは、パラシュートを細長くしたような形をしたようなキャノピーと呼ばれる翼にぶら下がり、上昇気流に乗って空を飛ぶスポーツです。80年代の半ばにフランスを中心としてヨーロッパで発達し、現在は、世界中の愛好家に親しまれています。

世間ではあまり知られていませんが、韓国はパラグライダーの愛好家の間ではとても良く知られた国です。というのは、韓国には世界的に有名なパラグライダーのメーカーが2つもあるからです。EDELパラグライダーとJINパラグライダーという2つのメーカーは、数々の国際大会で常にトップランキングに名を連ねる優れたパラグライダーを作っている、車にたとえればポルシェとかランボルギーニといったブランドイメージを持つメーカーです。そのような世界的に有名なパラグライダーメーカーの本拠地であるだけにパラグライダーの愛好家も多く、ソウル郊外のユミョン山、チョンガン山といったパラグライダースポットは、天気の良い週末ともなると、多いときは100機以上もの色とりどりのパラグライダーが青空に放たれた風船のように浮かんでいます。

パラグライダーの飛び方は、いたってシンプルです。山頂にパラグライダーを広げ、適度な向かい風が入ってくるのを待ちます。良い風が来たら、ライザーというラインを引き込むとキャノピーが風を受けて凧のように空中に浮かびます。その時、風に向かって山の斜面を掛け下りると、キャノピーは翼となってパイロットの体を空中に引き上げます。足が斜面から離れた瞬間からパイロットは鳥になります。風の力だけで空中に浮き、右にも左にも自在に空を舞うことが出来ます。といってもエンジンがあるわけではないので、鳥のように高く揚がって行くためには、上昇気流に乗らなければなりません。上昇気流は目に見えませんが、経験を積んだベテランパイロットであれば、地上の地形、近くを飛んでいる鳥の動きなどからどこに上昇気流があるのか知ることが出来ます。風の音だけを感じで鳥のように滑空し、上昇気流に入るとまるでエレベーターに乗ったように体が上昇して行くのを感じます。上昇気流の中で円を描くようにターンを続けていれば、その上昇気流に乗ってどんどん高度が上がり、地上の景色が箱庭のように小さくなっていきます。この時、パイロットは鳥のように自由に大空を飛翔している自分を感じて、このスポーツの虜となります。

しかし、はじめからこのように自由に空を飛べるわけではありません。もともと人間は空を飛べるように作られていない訳ですから、パラグライダーという道具の助けを借りて、風の力を利用して初めて飛べるようになります。従って、このスポーツを楽しむためには、パラグライダーという道具の使い方を熟知し、また、風を読むための知識が必要になります。このため、このスポーツを始めるに当っては、経験を積んだインストラクターによるスクーリングが必要です。日本にはこのようなスクールが100近くありますが、韓国にも、約50スクールがあります。

韓国人の友人のインストラクターに韓国でのスクーリングについて聞いてみると、日本とは違う国民性を感じます。このスポーツは一歩間違えば大きな事故につながることもあって、安全なフライトができるようになるためは、平地でのキャノピーの取り扱い方から始まって、小山での離陸のための練習、低高度での滑空練習などを徐々に高度を上げながら自然の条件、風の読み方など安全なフライトをするためのきめの細かいスクーリングを受けます。日本のスクーリングでは、週末だけ利用できる一般の人たちが一人前にソロでフライト出来るようになるまでは、2年から3年近くが必要です。

スクーリングを受ける側もインストラクターの指示のもとでそれなりに楽しくフライトしています。むしろソロのライセンスを取得し、これから一人で飛べますよと言われると、すべて自分の責任において飛ばなければならない重圧感から突き放されたような不安を感じて、もっとスクールでとばせて下さいというような人もいます。

一方、韓国の友人のインストラクターによれば、韓国人は一般的にとても情熱的かつ独立心が強く、パラグライダーの扱い方の基本、離着陸の基本など4、5回のスクーリングをするとスクールには来なくなり、自分で勝手に飛び始める人が多くて困るというようなことを言っていました。実際に、韓国のフライトサイトに行くと、たくさんのパイロットがいますが、うまく上昇気流に乗り空中に長くとどまって飛んでいる人はそれほど多くありません。一直線に滑空して着陸してくるパラグライダーを見ていると、決められたところにきちんとランディングできずに、近くの木に引っかかったり、駐車している車にぶつかったりと、日本ではあまりない光景を見ることもあります。日本であれば、こういう事故がある本人にも意気消沈し、まわりも大変だと結構なお騒ぎになるのですが、韓国では、こういうことが日常茶飯事なのか、びっくりしているのは私一人で、周りの友人は、本人が大きな怪我をしていなければさしたる騒ぎにもなりません。しかも、さきほど木にひっかかっていたなと思う人が、また離陸の準備をしているのを見ると、少々のことには動じない韓国の人のバイタリティーを感じます。
来年は、韓国で日本との共催によるワールドカップサッカーが開催されますが、パラグライダーのワールドカップとも言うべきPWC(パラグライダー・ワールド・カップ)も、来年韓国で開催されます。世界中から、一流のバイタリティー・パイロットが韓国に集まり、韓国の空でその技術を競います。バイタリティーの愛好家としては、サッカーとともに来年が楽しみであり、そのときまで韓国勤務が続けばいいと願っています。