「セラー」と「マーケッター」

韓国富士ゼロックス(株)
代表理事・会長 高杉暢也

韓国は世界で最も進んだIT・デジタル国家である。ブロードバンドの普及率やインターネット利用者の比率は世界でもっとも高い水準にあり、情報通信分野では世界でもっとも進んでいる国の一つである。

ところが、韓国の複写機市場においてのデジタル化比率は私が韓国に赴任した6年前はたったの2%程度でタイ、インドネシア、フィリピンといった経済後進国よりも遅れていたのである。韓国に赴任した時の一番大きなカルチャーショックがこの事であった。爾来、弊社がデジタル化をリードし、昨年やっと市場全体で50%に達し、今年は更に加速してきている。

何故、韓国の複写機市場のデジタル化比率は遅れていたのか…?
その理由は販売側の我々、そして購買側の顧客の双方にあったと言える。我々、売る側はメーカーとして機能や品質よりもコストを中心に、ただ安く、コピーさえできればよい複写機を作り、主に代理店を通して売ってきた。この点から言えば多機能を持つがコストの高いデジタル機よりも、アナログ機の方が理に適っていたと言える。一方、顧客の方も機能よりも値段の安いアナログ機を代理店から主に地縁、学縁などの縁をベースに買っていたのである。これはひとえに販売側としての我々、売る側に責任があったと言える。即ち、我々売る側がマーケッターとして顧客側のオフィス生産性改善の啓蒙活動をしてこなかった事によるものであると言える。

私はマーケッティング上、ものを販売する人を「セラー」と「マーケッター」と次のように区分して定義している。「セラー」はただものを売る人、「マーケッター」は顧客の問題を解決しながらものを売る人。即ち、コンサルティングセールスやソリューションマーケッティングのできる人である。

韓国の経済発展のためには企業の労働生産性向上が求められる。 スイスのIMD発表資料(2003.6)によれば韓国の労働生産性は世界経済発展国30カ国中、残念ながら最低の水準である。この理由は多発する労働争議なども原因に含まれるが何よりオフィスの事務生産性の悪さにあると思う。これからの企業経営においては「如何に情報技術を活用し、情報の加工と整理を迅速に行うかが鍵」となるのである。今や、デジタル複写機は単なる複写機ではなく、1台でCopy, Print, Faxなどの機能を持ち、かつ、コンピューターとも繋がるネットワーク機能を持つオフィス事務機なのである。この高付加価値オフィス事務機を如何に駆使してオフィスの生産性を高めるかが企業の競争力を高める鍵なのである。このような高付加価値商品は「セラー」でなく、顧客のオフィス生産性の問題を解決できる人、即ち、コンサルティングセールスやソリューションマーケッティングのできる「マーケッター」でないと売れない。従って、これまでのただものを売る人「セラー」でなく、これからは「マーケッター」を育てなくてはいけない。そのためには「営業のR&D」、即ち、営業教育が必要となる。

韓国複写機市場のデジタル化比率がますます高まることは労働生産性向上の観点から喜ばしいことだが、競合各社がアナログ複写機を売っていた時代と同じ感覚で、旧態依然として低価格だけを武器にマーケットシエアー争いをしている姿に無念さを感じる。 正当な価格と適切なマージンを得ることにより、再びR&D投資をして更なる高付加価値オフィス事務機を開発・生産し、正しい営業活動を通じて顧客のオフィス生産性の改善をはかることが経済の健全な循環である。単なる低価格販売は業界の地盤沈下を招き、経済を悪化させる。
今こそ2つのR&D、即ち、「開発のR&D」と「営業のR&D」に投資をすべきである。特に、「営業のR&D」=営業教育投資をして「マーケッター」を育て顧客のオフィスの事務生産性向上に貢献すべきである。 世界経済発展国30カ国中、最低の水準である企業の労働生産性を高めるためにも。

毎日経済新聞のコラム(2004年8月2日掲載)

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