韓日労使関係比較

ここ数年、韓国の経済成長は鈍化している。総選挙後、マスコミが行った世論調査でも国民は「経済再生」を最も重要な問題だと指摘している。しかし、今年も下期に入り経済見通しは徐々に下方修正されてきている。経済成長鈍化と根強い係わり合いがあるのが不安定な労使関係だと言われている。報道によれば労使紛争件数は97年に78件であったが毎年増え続け、今年は7月現在までに既に368件発生して例年にない規模となっているようだ。経済活性化の為に外国人投資誘致は主要な政府経済政策であるが、残念ながら期待とは裏腹に強盛労組と不安定な労使関係が外国人投資を鈍化させている。
韓国での6年の経営経験をベースに、日本人経営者として韓国労使関係を以下の4点から日本と比較し、私見を述べてみたい。

(1)経営の透明性
「漢江の奇跡」と称される経済発展をもたらした牽引者が財閥であったことを疑う余地はない。韓国財閥経営は所有者イコール経営者で所有と経営が不分離の状態で、経営が不透明になりやすい傾向がある。日本にも三井、三菱、住友と言った財閥はあるが、1945年の終戦時、時の米国マッカサー将軍から財閥解体を命じられ、以降所有と経営は分離し、所有者は投資家となり、経営は専門経営者に委ねられてきた。しかし、当時、専門経営者などおらず、時間をかけて育成をしてきた。従って、組織を活性化するためにも経営を透明にせざるを得なかったことが実情である。私見ではこの「経営の透明性」が一番根本的な相違点であると考える。

(2)労働運動の歴史
日本では終戦の混乱時から会社経営は専門経営者と労働組合との葛藤の中で進んできた。初めの内は歴史に残る三井三池炭鉱の労働ストライキを始め、日本全国で労使紛争が頻発し、賃金値上げの「春闘」では国鉄や私鉄などのストライキは恒例化した。やがて、日本経済が高度成長を遂げた1980年代後半になると、国民所得の向上とともに労働ストライキは国民からの支持を失っていった。そして、これまで労働者が支持した政党、社会党も崩壊していった。韓国の場合、1987年「6.29民主化宣言」以降労働運動の民主化が始まった。従って、労働運動の歴史はまだ若く、未熟ともいえる。日本でも労働運動のリーダーが労働貴族化し、イデオロギー闘争に走った時代があった。

(3)国民所得
経済の発展途上時は一人あたり国民所得も低く、労働者は生活改善を求め、賃上げ要求などの労使紛争を起こしがちである。日本では上記の労働運動の歴史とも関わるが、国の経済発展とともに1人あたり国民所得も向上し、1980年代後半の2万ドルを越える頃から労働運動も沈静化していった。韓国の場合、現在1万ドルの国民所得を2010年までに2万ドルにする過程にある。

(4)企業観
両国とも儒教の影響を受けている。日本は儒教から「忠」の精神を身につけた。昔から主君に対して忠誠を尽くすことが美徳とされた。戦後は運命共同体として会社に対して忠誠を尽くすことに変わり、そのことが日本経済の発展の原動力となった。幼児時代から「人に迷惑を掛けるな」ということを教え込まれ、個人より組織を重んじる風土を作った。一方、韓国は「孝」の精神を身につけた。幼児時代から「人に負けるな」と教え込まれ、独立心や自尊心が育まれ、組織より個人を重んじる風土が育った。

以上が私の韓日労使関係比較論である。我社は2001年に労使無紛争を宣言し、爾来4年間、無交渉で賃上げを妥結するほどの良好な労使関係を築き上げた。これはひとえに相互コミュニケーションによる経営透明化で労使の信頼関係を構築した結果である。上記の労働運動の歴史、国民所得、企業観は他社と何の変哲もないのである。

神は人間に平等に1日24時間を与えている。8時間は睡眠など自分のための時間、8時間は食事や団欒など家族との時間、残りの8時間は顧客や会社の業務の為の時間である。にもかかわらず鉢巻を巻いて24時間ストライキをやっていることは個人にとっても、企業にとっても、国にとっても大きなエネルギーの無駄である。

毎日経済新聞のコラム(2004年9月掲載)

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