盧武鉉大統領訪日随行記

5月の初旬に盧武鉉大統領の6月6日から9日の日本への国賓訪問に随行して欲しいとの要請を産業資源部と外交通商部から頂きました。光栄であると同時にそのような大役が勤まるだろうかと言う不安が脳裏をよぎりました。

この度の大統領の訪日目的は(1)新たな対日外交推進の基盤構築(2)韓半島の平和・安定のための日韓協力強化(3)平和・繁栄の北東アジア時代を実現するための日韓協力基盤強化(4)在日韓国人社会の健全な発展のための支援と激励とされています。
特に(3)項目に関しては経済項目で日韓の経済・通商関係の協力強化、10大アジェンダの1つである「東北アジア経済中心構想」に対する日本への協力呼びかけがその目的とされています。このため全経連の孫吉丞会長、大韓国商工会議所の朴容晟会長、韓国貿易協会の金在哲会長、中小企業協同組合中央会の金栄洙会長、韓国経営者総協会の金昌星会長の経済5団体長に韓日経済協会の金相廈会長、PBEC趙錫来会長、全経連の玄明官副会長の3代表と、加えてSJC理事長も招聘され計9人が随行の要請を受けたのです。

この背景を考えた時、私はSJC理事長として「SJCの本年度方針である日韓友好親善と日韓FTA早期促進のために積極的に参加すべきである」と決意し準備をはじめました。

先ず、6月中旬に提出予定の産業資源部宛て「事業環境改善に向けたSJC建議事項」を大統領訪日前にと考え産業資源部と折衝し、急遽5月30日に変更し、インターコンチネンタルホテルで「尹鎮植産業資源部長官との懇談会」として尹長官に日韓FTA早期促進を訴求しました。

東京でのスケジュールでは上記の韓国側経済団体長と共に行動をすることになりました。お陰さまで初面識の孫吉丞全経連会長をはじめ皆さんにとても親切にしていただき、親しくなることが出来ました。
7日(土)の午前12時30分から尹鎮植産業資源部長官主催の日本投資家午餐会がニューオータニホテルで開催されました。韓国に投資をしている代表的な日本企業のCEOが招待され、昼食をはさんで数社のCEOから隘路問題や現状の説明などがありました。この場においても尹長官にとっては5月30日のSJCとの懇談会が有益であったのではないかと思われます。
その後、バスで迎賓館に移動して大統領との懇談会が開催されました。大統領が「忌憚のない意見や質問をお願いします」と笑顔で挨拶されたことに促されたのか、「韓国はこれからはもっとブロードバンドのソフトウエア―を育成させなくてはいけない」との建設的なコメントや「中国と比較し韓国に投資をするメリットは何ですか」と大統領が即答できないような質問も続出、1時間の予定時間はあっという間に終わりました。

その夜は7時から外務省飯倉公館にて小泉総理主催の晩餐会に招待されました。日韓両国に貢献のあった政治家、経済人、学者、文化人、芸能人など200名近い人々が参席しました。そこには中曽根元総理や宮沢元総理などの元老から各党の党首、大相撲の春日王、韓国の歌手ながら日本で人気の高いBOAなど老若男女、幅広い各界の代表の顔を見ることが出来ました。食事と談話を堪能した後のアトラクションで木村弓さんの日本ではまだ珍しいゲルトナー・ライアー(竪琴)を奏でての「千と千尋の神隠し」の弾き語りやBOAの歌を楽しむことが出来ました。アトラクションも印象的でしたが何よりも印象深かったことは小泉総理と盧武鉉大統領が膝を交えて話し込み、司会者が中締めの挨拶をしても気が付かないくらい親しく懇談されていた姿でした。盧武鉉流に言えばそのくらい2人はコードが合っていたように見えました。

翌8日(日)の11時30分から経団連会館で日韓経済団体長による「日韓関係の一層の緊密化に向けた両国経済界の決意書」の打ち合わせ会が開催されました。そこには「両国がさらに戦略的連携を推進し、韓国の推進する東北アジアビジネスハブ建設構想と日本経済界が目指す東アジア自由経済圏構想の実現に協力し、この実現のために両国首脳には、包括的な日韓FTAの早期締結に向けた政府間交渉ができるだけ早い時期に開始されるようリーダーシップを発揮していただきたい」と言う主旨が盛り込まれました。そして12時30分から日韓経済団体長が盧武鉉大統領に謁見し、決意書を手渡しました。日韓FTAの早期締結と言う思いは両国経済界代表の間に異論がないようでしたが、政府間交渉の開始時期について「年内」と言う日本と「できるだけ早い時期」と言う韓国に多少の意見の違いを見せました。

その後、13時から経団連会館国際会議室で両国経済団体共同主催の午餐会が開催されました。奥田経済連会長の歓迎挨拶に続いて盧武鉉大統領の挨拶がありました。
東北アジア経済中心構想や信頼と協力の労使文化を1,2年以内に定着させると熱っぽく語った後、日本資本主義の開祖である石田梅岩の言葉「真の商人は相手と自身、皆が良くなることを考えなければならない」を引用して日韓FTAが早期に政府間交渉に入ることを期待すると挨拶されました。私自身が大変驚き、また光栄に感じたことは挨拶の中で「今回、ソウルの日本人会(SJC)の高杉暢也理事長を同伴しました。また、高杉暢也理事長を憲法上の大統領諮問機関である国民経済諮問会議の委員に委嘱しました。」と紹介されたことです。この意味は韓国に進出した日本企業を外国企業でなく、韓国企業とみなし、愛情と関心をもって支援すると言うまさに大統領の「未来志向の日韓関係」構築の配慮だと感じました。食事の後、質疑応答の時間に東芝の西室会長と東レの平井副会長から代表質問があり、大統領も懇切丁寧に答えていました。

大統領訪日出発前の韓国の新聞各紙は「初の戦後大統領訪日で日韓新時代」と囃したてました。大統領も「これまでの韓国の強硬発言が日本の世論を柔軟にしたことはなく、いつも日本の強硬派の立場を強めた」として、歴代大統領とは好対照に「未来志向の日韓関係」をアピールして訪日しました。

(日本駐在の)外国人を(その国の)セールス外交に活用することは日本ではまったくないことで、この度の盧武鉉大統領の訪日はグローバル化時代に足早に対応した外交スタイルだと思います。また、日本国民との対話や日本の財界人との昼食会で見られた大統領の情熱的で率直な行動は日本人に深い信頼感を与え、日本国内にはっきりと『盧武鉉効果』が出ていると確信しています。
ところがソウルに戻ってみて、韓国メディアの論調の厳しいことに驚きを隠せません。

盧武鉉大統領が若さと英知でグローバル化時代の「未来志向の日韓関係」構築にエネルギッシュに行動している様を実感したこの度の随行でした。
(2003.6.19記)

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