韓舞「白い道成寺」

日韓文化交流基金金賞受賞の金利恵さんが構成・振り付け・演出をし、韓舞する「白い道成寺」が10月31日に東京・草月会館で公演されました。「韓舞」とは金利恵さんが伝統的な韓国舞踊を基にしつつ、それに新たな創作を加えた自らの舞踊に名付けたものです。「道成寺」物語は紀州道成寺(どうじようじ)の縁起に伝わる伝説で日本では能・浄瑠璃・歌舞伎舞踊などに脚色され広く知られています。道成寺の釣り鐘の再興供養に女の怨霊が白拍子の姿で現れ、乱拍子を舞い、蛇体となって供養を妨げるのですが、僧の祈りで退散すると言う恋に破れた女の恨みと死後の執念の恐ろしさを描くお話です。この説話には古代、土着日本人と渡来人の葛藤の歴史をその源とすると言う説もあるようで日韓の古い繋がりを感じさせます。この「道成寺」を「白い道成寺」としたのは白衣民族とも言われる韓国人の白を象徴とし、韓国文化に根ざした新しい解釈で新たなもう一つの「道成寺」を作り出した金利恵さんのアイデアです。

「道成寺」物語は日本の古典ですから、私は二つの観点から興味を持ちました。
1つは日本の古典舞踊と韓国舞踊の調和です。特に日本の古典「能」は間の取り方が大事です。これに金利恵さんがどう挑戦するのか興味がありました。 2つめは日本の古典音楽(邦楽)と韓国の伝統音楽(国樂)の調和です。邦楽は「静」であり、国樂は「動」ですからこの「静」と「動」を如何に調和させるのか興味津津でした。

しかし、私の興味と言うより心配事は杞憂に終わりました。
金利恵さんの舞は「間」を飲み込んでしまったまさに韓舞でした。彼女の表現を借りれば「舞い踊っている時、大きな自然の流れに触れたように感じる瞬間があります。思いが膨らむと、呼吸が流れ、体が応じます。足を踏み、手を上げ、宙に弧を描き、息を止め、抱き、解き、放ち…、それが舞いになり、踊りになります。」と言うことになります。
「静」と「動」の調和も杞憂に終わりました。今回の韓国側の音楽監督を努め、チャンゴの第一人者で国民勲章受賞の金徳洙さんは「日韓両国の伝統音楽はそれぞれそれなりの味と呼吸を発展させてきた。そしてこの2つは絶えず会わなければならない。会えば関係が生まれる。生まれる関係は調和でなくてはならない。そして、その調和はお互いの本来の姿を守りながら共に分かち合う時に可能になる。」と言い、見事に調和させ我々観客に感動を与えてくれました。
そして、私はこの調和の接点に久米大作さんのキーボードが大きな役割を果たしたと感じました。「静」の邦楽の代表楽器は鼓です。鼓は「わさび」のような鋭い響きがあります。「動」の国樂はチャンゴ、ケンガリ、テグム、チン、テピョンソ、アジェンなどで奏でられ、それは「ビビンバ」のような賑やかさがあります。久米大作さんのキーボードはこの「わさび」と「ビビンバ」をうまく調和させました。

日本側の音楽監督を務めた邦楽囃子仙波流家元の仙波清彦さんは日韓の「静」と「動」そして「恨」の表現の形を楽しんで欲しいと挨拶されていますが、今回の「白い道成寺」公演は見事にそれを実現しました。日韓の文化に新しいページを開いたと確信しています。

ここに「白い道成寺」物語を再現してみましょう。読む方は金利恵さんの舞と「静」と「動」の音を脳裏にイメージしながら読んでいただければ幸甚です。

1) 再来―蘇る怨念
旅の踊り子、白拍子に身を変えた女(清姫)は咲き誇る桜の下で乱拍子という不気味な舞を舞う。小鼓一丁が裂帛の気合で長い掛け声をかけて打つ。拍子を踏みながら女は舞台を一巡。情念は静けさのうちに極限に達し怨念が蘇る。急変した音楽の中、女が鐘の中に身を投げると同時に鐘が落ちる。邦楽の独特な乱拍子の音楽が静の極から動の極へ。舞は緊張の「間」と呼吸をあわせる。

2) 追想―恋と哀しみ
遠い昔、女は男(安珍)と出会った。どこからか聞こえ始めるチャンゴの音とチャンダン(リズムパターン)にのって、女は次第に心を高めていく。想いを寄せ,焦がれ、そして歓び…やがて気がつく、背信。 国樂がリードする中で、全羅道地方に伝わるシナウイ(巫俗音楽)のメロデイーとともに、抑制した動きで韓国重要無形文化財第27号「サルプリチュム(舞)」をモチーフに哀切さを表現。

3)情念―煩悩と解説
再び鐘が吊り上げられると女は恐ろしい蛇の姿となって現れる。怨霊の祟りを恐れる僧侶たちの読経と闘いながら蛇身は情念のままにもがき苦しみ舞う。そして、自らの煩悩,呪縛,怨念の地獄から解かれようとすると、すがるように太鼓を打ち鳴らし、やがて、…。邦楽「祈り」と国樂「東海岸別神クッ」の合同演奏がブッつかりあう。

4)祈りー再生と和合
道成寺の住職の夢に一人の僧と女が現れてそれぞれ都率天に昇り、功利天に生まれたと告げて去った。怨念の地獄から抜け出て、天に昇った清姫の霊は人と生き物、この世のあらゆるものの和合を願う舞を繰り広げる。
韓国京畿地方に伝わる巫俗音楽を中心に演奏。5拍、12拍,15拍、24拍など多彩で複雑なリズムパターンに邦楽が添うように呼吸をあわせ、両国の音楽と舞は調和していく。

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