韓国経済の二極化現象解決のヒント

尊敬する盧武鉉大統領閣下殿
韓国経済が抱える問題の解決策について経済諮問委員としての意見を上申いたします。

各種統計数字だけを見ているとそれなりのプラス成長を続けている韓国も、ビジネスに携わっている経営者としては景気が低迷していると実感している。そしてエコノミストからは韓国経済は深刻な二極化に直面していると言われている。経済の二極化はグローバル化と技術革新による経済成長からもたらされるもので不可避であるが、韓国は資本主義と民主主義が発展プロセスにあり二極化現象が過度に現れていると考えられる。

二極化現象は以下のようなものである。
(1) 輸出は好調の反面、民間消費と設備投資は極めて不振という輸出・内需の二極化
(2) 輸出・内需の二極化でもたらされる産業および企業間の二極化
(3) 雇用および所得の二極化
(4) 都市と地方の二極化

エコノミストの分析によれば、韓国はグローバル化と技術革新により先導産業、特にIT産業中心に産業構造が再編され、輸出が急伸長し、2002年以降、産業間の二極化と輸出・内需の二極化現象が起こった。そして、同時にグローバル化と技術革新に適応性のある企業と適応性の低い企業間に格差が生じてきたとされる。
1990年代後半以降、韓国経済は成熟段階に進み、生産要素の量的側面よりは質的側面がより重要となり人材と技術の質的格差が経済全体に及ぼす影響が大きくなった。

特に、1998年に起きた韓国経済不況はタイ等の他のアジア諸国と同様に短期資金の引き上げに起因しているが、根本原因は「土地・労働・資本などの有形資産の時代であった30年前の経済構造、産業構造及び企業構造をもってして、知識・技術・情報などの無形資産の時代である21世紀のパラダイムに対応しようとしたところにある」と言われている。 金大中前大統領はIMF危機管理の中、「民主主義と市場経済」政策の基に経済・産業・企業の3つの側面から構造調整を進め、今もそのプロセスにあると思う。 経済・産業・企業の3構造調整の成否をレビューし、経済の二極化を解決するヒントを述べたいと思う。

先ず、「経済の構造調整」であるが、政府は国民経済計算上の注目指標をGNP(国民総生産)からGDP(国内総生産)に切り替えた。結果としてGDPは99年10.9%、2000年9.3%、01年3.0%、02年6.0%、03年3.1%とIMFの優等生と称されるほどの成長を示した。この成長に大きく貢献したのが外国直接投資(FDI)である。政府はこの国を外資投資企業にとって最も経営しやすい国にするとFDIに優遇策を執ってきた。その結果、1998年以降、投資額は拡大し今年の7月には1962年以来の投資累計が1000億ドルを超え韓国経済に貢献した。特に今年度に入り、減少傾向にあった投資が増加したことは喜ばしい限りである。更なるFDI促進の為に以下の2点を指摘したい。

(1)大統領が示した「東北アジアにおけるビジネス・ハブ建設構想」の中の新素材や部品素材の先端産業基地を実現するためには産官共同で日本に働きかけるべきである。
昨年5月、続く今年8月にソウル・ジャパンクラブ(SJC)は産業資源部長官に投資誘致政策の変更を建議した。その内容は次の通りである。
「日本の新素材や部品素材ベンダーが中国や東南アジアに投資するのは日本の産業構造上、先ずメーカーが投資をし、下請けのベンダーはそのメーカーからの仕事の保証があるから投資をする。 産業構造が似ている韓国には日本のメーカーは生産設備投資をしない傾向にあり、拠って、下請けのベンダーも投資をしない。これまでのインフラ設備やインセンティブの付与などを盛り込んだ各種投資誘致説明会開催のステレオタイプ的投資誘致策には限界がある。日本の部品と素材関連企業を韓国に誘致するためには、韓国企業との安定的な取引を保障することが鍵となる。従って、産官共同で日本からの新素材や部品素材の誘致を働きかけるべきである。

(2)投資後、政策の変更や政府と行政の不統一性が散見されるが、大統領の強いリーダーシップで政策や政府と行政間のconsistencyを守っていただきたい。
例えば、昨年8月に経済自由区域が設定されたが、新聞報道などによれば、1年経っても法整備が進まず仁川経済自由区域の関係者は医療や教育機能が整備されなければ東北アジアビジネスハブとしては機能しないと懸念していると言う。仁川経済自由区域庁と財政経済部は2008年までに松島地区などに医療ハブを作ると言う構想を進めているが医療を管轄する保健福祉部と国内業者はこれに反対していると言う。また松島地区に各国の名門校誘致を進めているが、韓国人の入学を認める関連法案が遅れて進展していないようだ。このように政府と行政の不統一性は外国直接投資者に混乱を与える。


2番目の「産業の構造調整」は従来のハード産業(重厚長大型産業)からソフト産業(軽薄短小型産業)へと脱皮を図り新産業を開発する事として推進されてきた。 韓国人の強みに企業家精神、ITに優れているなどがあげられる。それを裏つけるかのように98,99年のIMF管理下時はパソコン、インターネットのソフト関係のべンチャー企業が群生のように起業し、そしてやがて自然淘汰された。IT関連技術進歩の加速で、情報通信関連需要の急伸長、社会全般的な情報化の趨勢などがもたらされIT産業の成長が非IT産業の成長を大きく上回った。しかし、輸出品を生産するIT産業の場合、技術・資本集約度が高く、中間財の輸入依存度が高いため、労働力依存度が相対的に低くなり、雇用創出効果は低く、IT産業製品輸出需要の増大が国内投資および雇用の増加に連結することは難しい。一方、部品素材産業は殆ど発展せず、大企業の成長果実が中小企業に伝播できない実情である。優良大企業は急速な技術進歩に対応し、R&D投資などを通じて自らの技術水準を高めているが、中小企業は資金と人材不足、信用力の制限などの要因でR&D投資に厳しさを抱えている。従って、産業連関関係を強化し,輸出の増加が投資、消費および雇用の増加に繋がる好循環構造を構築しなくてはならない。現在の大企業中心の産業クラスターを中長期的に中小企業も参加できる開放型に改変する必要がある。そして企業間格差を少なくするような革新および調整を積極支援し、人的資本育成中心の成長促進型細分財政策をとるべきである。特に日本からの新素材や部品素材の誘致は不可避である。そのためにも日韓FTA締結は焦眉の急であると思う。

韓国で経営に携わり、生活をしてみて驚く事の一つに目に見えないものに対して価値を認めない、即ち代価を支払わないという事がある。サービスやコンサルテイングや商権は"只"だという考えがまだ蔓延している。 海賊版の氾濫、知的所有権の無断使用などがアフターサービス(ソフト産業)の育成を阻んでいる。これからの知識産業時代を目の前に国民への啓蒙活動を急ぐべきである。


最後に「企業の構造調整」であるが、「漢江の奇跡」と称される経済成長の牽引車が「財閥経営」であった事は疑う余地はない。 「財閥経営」の特徴は即断即決のよさはあるものの「所有と経営不分離」であるが故に経営に透明性を欠くことが欠点である。金大中大統領は従来の「所有と経営不分離」から「所有と経営分離」へ変化させ、専門化体制を確立させる「企業の構造調整」を政府指導で精力的に推進してきた。 しかし、まだ十分ではない。 日本でもマスコミを賑わした現代自動車やロッテホテルなどの労使紛争は「財閥経営」の特徴である経営の不透明性にその原因がある。労使紛争は韓国の代表的ネガティブイメージとなっている。例えば、昨年の斗山重工業で起こった労使紛糾は新政府の労使政策に懸念を残した。 即ち、合意案がストによる賃金損失分のうちの半分を補填すると約束したことにより「ノーワーク・ノーペイ」の原則を崩壊させた事例を作った。 仲裁の方法についても労働部長官が直接介入し、従前の労働部仲裁案より更に一歩「労」側に傾いた仲裁案で妥結した結果は外国投資家に相変わらず硬直した労使関係のイメージを植え付けることとなったに違いない。 今年に入ってからも改善は見られるものの労使紛糾件数は増え続けている。 また、CSRの観点から見てもSKグローバルの1兆5千億ウォンを超える粉飾会計事件は表向きグローバル・スタンダードを繕いながら実態は相も変らぬ不透明な「財閥経営」の実態をさらけ出した。 外国投資家はこれがSKグローバル1社だけの問題とは思っていない。 経営の透明化が鍵である。
また、スイスのIMD資料によれば「労働生産性」は先進30カ国の中で韓国は30位と言う不名誉な状況にある。日本のトヨタ自動車は昨年1兆2千億円の純利益を出しながら、生産性が目標を下回ったという理由から基本給は据え置き、ボーナスも前年比45%減で労使が合意した。韓国の労働運動の民主化は1987年からスタートし、未熟ではあるが、国民所得2万ドル達成の鍵は給料増加以上の「労働生産性」の改善だということを啓蒙すべきである。

(2004,12,8)

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