「ケンチャナヨ経営」と「クレヨ経営」 =7年間韓国で経営に携わって=

講師 高杉暢也氏
2005年11月24日

Ⅰ.はじめに

 「ケンチャナヨ経営」と「クレヨ経営」という意味不明のタイトルで恐縮です。この説明に入る前に、まず私と韓国の関わりについてご紹介します。
 1997年アジア通貨危機から、韓国も経済危機に陥り、当時コリアゼロックスと称していた私どもの会社は、50・50のジョイントベンチャーだったのですが、韓国側パートナーが経営に行き詰まり50%の買戻要請を受け、富士ゼロックスの100%子会社にしました。会社再建の命を受け私が赴任したのが1998年でした。7年間韓国で経営に携わってみて、韓国という国、経済、文化等の観点から、韓国の現状について、少しでも生の情報を皆様にお伝えできたらと思い、今回の講演をお引き受けいたしました。

Ⅱ.韓日経営比較

「ケンチャナヨ経営」と「クレヨ経営」
 韓国語で「ケンチャナヨ」とは、「まあ、いいじゃないか」という気持ち、「他人への依存心」のニュアンス、「どちらかというと、そう細かく考えないで大胆に」という意味合い等、状況に応じ多彩な意味を持つ言葉です。そこで、韓国の経営の、大胆・即断即決という特徴を捉え、「ケンチャナヨ経営」と名付けました。
 日本の経営は、即断即決というよりも、取締役会や稟議書に基づく合意の経営。ある意味で非常にスピードが遅くなる経営です。韓国語では「クレヨ」が当て嵌まります。この言葉は、「何かそうですネ」という感じ、「チョッと考えさせてヨ」という慎重的なニュアンスを含んで使われます。
 実はこの命名者は私ではなく、私どもソウルジャパンクラブ(SJC)の経営研究会で、ある時、韓国人の経営者がそう名付けたものです。繰り返しますが、韓国経営の特徴は、即断即決・問題解決型、ともかくイエスかノーをはっきりさせるという面があると思います。一方、日本はどちらかというと問題先送り・回避型と言えます。従って、経営判断のスピードは、両国でかなり異なります。サムスン・LG・ヒュンダイ等韓国を代表する世界的企業に共通するのは、リスク・ティーキング、集中と選択の意思決定が非常に速い点であり、財閥経営、即ち、オーナー経営がその背景にあると思います。
 さて韓国の財閥についてですが、歴史的に個人商店だったものがどんどん大きくなって大企業になってきた側面があり、所有と経営の分離が不完全で、経営の透明性に欠ける面があるのは否定できないと思います。後継者は子供や親族が一般的です。
 日本の経営は、終戦・敗戦後に財閥解体が行われ、専門経営者が育ってきたわけで、当初はもちろん混乱はあったと思いますが、所有と経営の分離、比較的透明性のある経営が存在し、後継者は専門経営者が一般的と云えます。

経済活動の本格的スタート時期と労働運動
 日本では、1952年の日米平和条約の発効後あたりから、資本主義、民主主義に基づく経済活動が本格スタートしたと思います。韓国の場合は朝鮮動乱が終わった後、即ち1953年、南北休戦条約調印後に、本格的な経営活動がスタートしたと言えます。
 日本の労働争議は、1960年代から70年代、80年の前半までがピークだったと思います。やがて国民所得が3万ドルに入り、激しい労働争議は影を潜めていき現在に至っています。余談ですが私は1966年に入社し、当時赤坂に本社があったのですが外堀通りでは、フレンチカンカンスタイルのデモが頻繁にありました。また春闘のたびに国鉄や私鉄がストライキをし、当時経理部にいた私は、決算・予算の段にはホテルに泊ったり、トラックに乗ってご出勤という、今から考えるととても懐かしい思い出があります。
 韓国は、1987年、今から約18年前にやっと労働運動の民主化がスタートしました。テレビ等を通じた韓国の印象というと、鉢巻きを巻いた労働争議という向きも多いと思います。正直、いまだ労働争議は多発しております。実質的にはまだ1万$レベルという国民所得の状況もこの背景にはあると考えています。

儒教の影響
 さて、歴史的に中→韓→日と伝播してきた儒教についてお話します。三カ国間の共通項と単純に考えるのは禁物です。一口に儒教といっても、中国は「信」、韓国は「孝」、そして日本は「忠」と言われています。
 歴史的時間軸の中で各国とも儒教は変化しており、日本の場合は、その影響は、企業に対する「忠」の精神に受け継がれていると思います。滅私奉公、運命共同体、企業戦士等の言葉が美徳として使われた時期がありました。日本の経営を支える一つのシステムと考える事ができます。
 韓国は「孝」の精神です。親、年長者に対して孝を尽くす。これが美徳として韓国では生きているわけです。従って相対的に、企業に対して忠の精神は弱いのです。私自身経験上、ここはかなり違うなと実感しています。ただあくまで比較論であり、韓国でも良い企業では従業員の忠誠心は強いことは事実です。良い企業、即ち経営が透明で、従業員が「我が社」と思える場合です。

経営手法の比較
 経営手法について言えば、日本の経営というのはまさに3現主義です。「現場」へ行って「現物」を見て、「現実」の事実のデータで経営をすると言うものです。TQC・TQMを思い浮かべてください。私はよく社員にPDCAを回せと言います。これによる改善活動、これが日本の経営手法の要諦だと思います。従って、きめ細かい品質を極めて重視する。そして小集団による現場での改善活動、その積み重ねがコストダウンに繋がっています。
 韓国の場合はここが難しい。韓国はもともと遊牧民族、日本は農耕民族という説があり、そこまで遡るのかも知れませんが、韓国では個人プレー色が非常に強い。小集団の改善活動はなかなか根付かないのです。いわゆる3現主義とは違い、試行錯誤的に試み、駄目なら又原点に戻る、という感じを受けます。只やること自体はスピーディーです。最近はシックスシグマ活動などが活発になってきており、変化を感じますが、まだまだ弱いと思います。また韓国の場合は、兵役制度のせいか上位下達が日本より強く、従業員が自分から積極的に行動するより、上から言われた通りにやる傾向があります。待ちの姿勢が強いと感じるケースに多く出くわします。そして、韓国で大雑把なことを、「テッチュン」といいますが、品質については、どちらかというとテッチュンです。物づくりに対する心構えが韓日で大きな差があると感じています。

教育観比較
 韓日の教育の相違点は、国民性の違いを考慮せざるを得ません。まず家庭内教育を例にとってみましょう。日本人は親から、「人に迷惑をかけるな」と教えられます。韓国では、「絶対に人に負けるな」です。勿論、迷惑をかけても良いとは教えませんが、このことが個人主義的な人格を育てていると思います。企業家精神を育てるには良いことだと思いますが、どうしても個人プレー色が強くなる感があります。
 企業にも当て嵌まります。日本では、企業がきちんと教育カリキュラムを組んで人材を育てる企業内教育、またOJTを非常に大切にします。上司が部下の面倒をみることも日本企業の強さの一つであると思いますが、韓国の場合には企業内教育にあまり重点を置きません。従って、ニワトリ・タマゴかも知れませんが、企業が企業教育にあまり重点を置かないから退職率も高く、退職率も高いから企業教育にあまり重点を置かないのでしょう。ちょっと古いデータですが、同一企業就業年は、日本人が平均14、15年、アメリカ人が大体7、8年、ところが韓国人は3、4年です。勿論、サムスンのような例外もありますが。

労働生産性比較
 両国の労働生産性の相違も、上述の国民性の違いが影響しているのではと思います。韓国は今日でも労働分配率に非常に重きを置いており、会社が利益を出すと、従業員からもっと配分せよ、という声が強くなり、それが労働争議に結びつく面がある感じがします。生産性以上に賃金上昇率が高いので、労働生産性は、韓国はOECDの中で最下位、一方、日本はナンバーワンです。労働生産性をいかに高めていくかが、韓国の大きな課題だと思います。

R&D投資比較
 両国経営比較の最後の項目になりますが、「ケンチャナヨ経営」というのは非常に短期志向的経営マインドですから、なかなか中長期的な視点からのものを考えない傾向があります。たとえばR&D投資なども非常に規模が小さいのです。
 2003年度のデータで見ますと、年間のR&D投資額は日本が1240億ドルで韓国は140億ドルです。韓国の経済規模は日本の10分の1~9分の1ですので、比率的にはこうなるかも知れませんが、私は少ないと思います。
 今日は細かい資料を持ち合わせていませんが、韓国で一番投資をしているのはサムスン電子で約2700億円です。2番目がヒュンダイ自動車でこれらトップ10社を総計してもトヨタ1社(6700億)に及びません。サムスン電子がつい最近、今後5年から10年間で、50兆WONの投資計画を発表しましたが、国も挙げて税制等でR&D投資に注力すべきであり、政府も施策を出しつつあります。
 以上、「ケンチャナヨ経営」と「クレヨ経営」と題し、韓日の経営比較を、私の経営経験も踏まえご紹介いたしました。

Ⅲ.韓国の構造改革について

 前述の通り、私は1998年に赴任しました。時を同じくして金大中政権が誕生し、民主化と市場経済の進展に向け大きく舵を取り、4大構造改革(企業・金融・行政・労働)に乗り出しました。
 赴任した時、何故韓国の経済危機が起きたのかを考えました。97年夏のタイのバーツ暴落を引き金に、またたく間に韓国を含めアジア各国が経済危機に陥りました。これは現象的には、外資の短期資金の引き揚げに起因して起きました。しかし、ある人が私にこう説明してくれました。「韓国の経済危機の根本原因はそんな通貨危機ではない。通貨危機が引き金ではあったが、根本原因は今までの土地・労働・資本という生産の3要素と言われる古い有形資産重視の30年前の経営スタイルをずっと引きずってきたことにある。今は情報とか知識とか技術とか無形資産の時代だ。パラダイムが変わっているのに、韓国経済はそれに対応できないからこうなったのだ」と。私も同感です。
 さて金大中大統領の4大構造改革ですが、私は視点を変えて、①マクロ経済、②産業、そして③企業という三点から構造改革を捉えてみたいと思います。

マクロ経済構造改革
 まずマクロ経済の構造改革ですが、マクロ政策の主要指標、国民経済計算上の主要指標を何に置くかが重要でした。日本もかつてそうだったですが、韓国はGNPということで、韓国の企業が世界の各地に行って財を成し、GNPが成長したということを善としていました。金大中大統領は、「そうではない、これからは国内生産をどう高めるかということ、即ち、GDPが大事な指標である」と外資導入(FDI)を採りいれました。これは一つの大きなポイントだったわけです。何故なら、これにより外資が韓国に投資し、国内の産業振興、景気回復に貢献したからです。1998年から99年にFDIは急増しました。しかし、1999年をピークにまた下降し、統計的には、大統領の意図とそぐわない状況が続きました。2003年~2004年、特に昨年はまたFDIは大変増えました。この要因について説明を加えたいと思います。
 私は2003年SJCの理事長に就任し、これまでの産業資源部への隘路事項建議を産業資源部長官に直接、建議するやり方に変えました。
 これまで韓国政府は、外国企業誘致のために工業団地や土地の格安の提供、優遇税制、飛行場、高速道路のインフラ整備など各種プロモーションを準備し、説明会を実施していました。政府は、「これだけプロモーションして、日本企業は韓国に何故もっと投資しないのか」と不満をたらしていました。私は、産業資源部長官に2つの理由を説明しました。まず一つは日本と韓国は産業構造が非常に似ている点です。韓国には白物家電、AV機器、半導体、自動車など大規模な生産・流通ネットワークが存在します。ですから日本メーカーは活発な投資はしないのです。一方、中国は未熟な巨大市場、低コスト、そして高い経済成長があるので日本メーカーは投資をするのです。
 もう一つは、日本の産業構造の特徴である系列化です。メーカーがあって、その下に1次ベンダー、2次ベンダー、3次ベンダーと、一つのピラミッドを構成しています。メーカーが投資すれば、ベンダーも一緒に進出するケースが多い訳で、これが中国に対しては投資のシナジー効果を生んでいるのです。一方、韓国に対しては、メーカーが投資しないから、ベンダーも来ないわけです。労働争議や、相対的には高いコスト構造も、二の足を踏ませる要因です。
 従って、SJCはこう提案しました。「産業資源部が日本に行って説明会を開くときにメーカーも一緒に行き、それで、こういう部品素材が必要なのだから、ぜひ一緒にやりましょうと説明して、投資を呼び込んだらどうか」と。韓国政府は良いと思ったら、即実行に移すという資質があると思います。産業資源部はすぐ実行に移し、2003年秋の日本での説明会では、サムスン・ヒュンダイなど大手メーカー何社かと来日し説明会を持ちました。その効果でしょうか、翌年にはソニー、HOYA等の大型投資があり、2004年度のFDIは急増しました。 ところで今年は投資額が落ちています。去年との比較ですから、調整局面ではありますが、ただ、投資件数だけをみると増えています。即ち大型投資は一服し、中小企業の投資が増えてきているわけです。ですから額は大きくないのですが、私は非常にいい兆候だと思っています。この10月31日のSJCとの懇談会でも産業資源部・李熙範長官に対して、「もっと中小企業を大事にし、誘致だけではなく、その後のケアも重要です」と、提案しました。

産業構造改革
 次に産業構造改革です。日本も同様でしたが、要はハードウエアからソフトウエアへの転換です。韓国は世界のIT・ブロードバンド・デジタル国家と言われていますが、金大中大統領に続いて盧武鉉大統領もソフト産業を重視し、転換を推し進めています。
 産業構造改革については、我が社の例をとってお話します。何故、我が社・コリアゼロックスが経営危機に陥入ったのかと言うことです。私どものビジネスは複写機をお客様にお貸しし、又はお売りして、お客様にコピーをとっていただくと言うものです。コピーはオフィスのコミュニケーションに資するので、アフターサービスビジネスは私どもの大事な分野です。仮に売上を100とすると、複写機販売のハードで大体3割、アフタービジネスが7割、これが我が社の安定経営の為の経験値です。ところがコリアゼロックスでは、販売7割、アフター3割と逆転していました。これはプロフィットやキャッシュフローにはあまり目を向けない、販売台数志向・シェア至上主義の経営だったからです。これでは不況になると物が売れないので経営はおかしくなる訳です。赴任後、いかにアフターサービスを増やすかに注力し、現在やっと5、6割まできましたが、この道のりは容易くはありませんでした。韓国のビジネス慣行と経営スタイルに深く根ざした問題だったからです。サービスはタダと思っていた訳です。日本もかつてはその傾向がありました。韓国のレストランで、キムチなどの惣菜がダーッと並ぶのに似ているかも知れませんネ。日本のようなトータルサービス契約は無いし、なかなか理解されない状況でした。機械が壊れたら直しに行くのですが、直してもお客様はお前のところの機械だからとお金を払ってくれない。では消耗品とか補給部品はというと、安価な海賊版やコピー商品が沢山ある訳です。我が社の代理店でさえ使用している有様でした。このような古いマーケットの体質を変えるのは本当に時間がかかります。努力は今も継続しており、少しずつ改善されつつあるというのが現状です。我が社だけでなく、韓国全体でも、政府の指導もありサービス・ソフトのビジネスとしての重要性がだんだん浸透しつつあると実感しています。
 コピー商品の話は、ここ日韓経済協会が今週月・火と京都で主催した産業貿易会議に私も出席しましたが、そこで韓国の方から、「中国は海賊版とかコピー商品が多い」との発言があり、韓国人も中国のコピー商品については怒り心頭なのだと興味を覚えました。世界のIT・ブロードバンド・デジタル国家と言われていますがソフト重視については、まだまだ韓国は改善の余地が多いと思います。

企業構造改革
 さて、最後に企業の構造改革についてですが、これは財閥経営、即ち、所有と経営分離、経営の透明化の話です。「漢江の奇跡」といわれる大変な経済成長を牽引したのは財閥経営ですから、これについて否定することはできないと思います。財閥経営の強さは即断即決、リスク・ティーキング、オーナーがどんどん引っ張っていくというところにあります。一方、所有と経営が未分離で、経営が不透明、このことは労働者の不満や労働争議の発生にも結びついています。韓国の日系企業では、今でも強硬な労働組合の存在が、頭の痛い問題です。
 また、いわゆる腐敗、不正問題も後を絶ちません。先週の釜山で開かれたAPECでも、アンティコラプション(anti-corruption)の宣言を出し、私も含め経営者約800人が署名し盧武鉉大統領に渡しました。今後、これらの問題を改善し実質的に企業の構造改革を推進していかないと、グローバル時代の中で取り残される危惧があります。

Ⅳ.構造改革の増進と今後の韓国経済について

北東アジアの経済ハブへ
 金大中大統領以来の構造改革を私なりにお話しましたが、盧武鉉政権に移って、大統領就任時に12のアジェンダを発表しました。その一つに「北東アジアの経済ハブ建設構想」というものがありました。これが唯一の経済アジェンダで、あとは全部内政問題でした。私はビジネスマンですから、経済ハブ構想に非常に興味を持ちました。当初は「北東アジアのハブ国家建設構想」と言いましたが、現在は表現をややマイルドにして経済ハブと称しています。
 さて、この経済ハブ構想ですが具体的には①金融センター、②ロジスティックスセンター、③R&Dセンターの三つを目指し、もって韓国の経済を発展させたいというのが、盧武鉉大統領の強い思いです。
 この三つセンターの実現可能性についてですが、まずファイナンシャルセンターについては香港、シンガポールと比較すると、イメージ的に見劣りする観は否めません。ウォンも国際通貨とは云えません。それからやはり香港、シンガポールと比べると英語力一つとっても今一歩だと思います。一方、ITのインフラは勝っているか匹敵しています。大統領就任後もう3年を過ぎました。有効な具体策が今後出てこないと、この実現は難しいと思います。

 ロジスティクスセンターは、韓国は地政学的上、中国と日本の間に位置し、一番実現可能性があると思います。今、韓国は、仁川地区と光陽地区とそれから釜山・鎮海地区に自由経済特区を推進中です。学校施設とか医療施設とかも作っています。特区として自立するために何をするかが大事で、単なるシッピングとかトランスポーテーションだけでなく、韓国の特徴の付加価値をつけることが大切です。政府もここに気付いていろいろやっています。この間も釜山新港の建設現場を見てきましたが、本当に凄い規模です。釜山と光陽はすごく接近していますから、オーバー・キャパシティにならないのかと心配する程です。もっと驚くのは、来年の1月開港予定だそうですが、私が今年の7月に行ったときには、殆ど何にも完成してなかったことです。韓国のことだから短期間にやるとは思うのですが、とにかくすごい施設を作っております。因みに付加価値をつけるという意味は、たとえば中国から魚介類を獲ってきて、それを単に輸出するのではなく、釜山新港で、加工したり、缶詰にしたりして、日本やロシアに送り込むといった、ワンクッション追加というのが、私のイメージするところです。バックヤードをつくっていろいろやっているので、このセンター構想はたぶん成功すると思っています。

 キーはR&Dセンターです。私は大統領の経済諮問委員をやっていますので、盧武鉉大統領にも申し上げているのですが、韓国の強みは何かといえばそれは「R&Dと生産の一体化」だと思います。従って、最も注力を注ぐべきところだと思います。
 自分の経験をお話します。富士ゼロックスは、4年前まで、中国、韓国、日本に各々工場がありました。当時の戦略は、コスト採算性から、全部中国に工場をシフトするというものでした。現に日本の工場のいくつかはクローズになりつつあります。我々の仁川工場もクローズ対象でした。仁川工場には250人の従業員と約100社のベンダーがあります。そこで私は本社に掛け合いました。「グローバル経営とは、例えば宇宙船から各国を見て、その国の強みを活かすことである。韓国の強みは開発と生産の一体化にある。これを最大限活用すべきだ」と。確かに生産コストは中国が安いです。中国は韓国の生産コストの約10分の1、韓国と日本では3分の1といわれていますから、中国と日本を比べれば30分の1です。生産コストだけなら中国の生産拠点の優位性は揺るがないでしょう。しかし、トータルコストで見るべきだと思います。物づくりというのは単に設計図を描いて、さあ作れというものではない筈です。必ずそこに技術から生産に移行する生産技術のプロセスがあるわけで、この部分は開発した人間が一緒になって生産現場でやる必要があります。紙一枚渡して作れという代物ではないのです。韓国のR&Dを使う利点はココにあるというのが私の主張でした。韓中のR&D能力を比較し、R&D費も含めたトータルコストで考える必要があると思ったのです。 6年前、韓国のR&D社員を日本に送り込んで、デジタル技術を学ばせた結果、本当にもののみごとに1年でそれを習得して、なおかつ日本語まで覚えて帰ってきました。これは本当にすごい能力を持っているなと思いました。韓日のR&Dコスト差は、3分の1はないにしても、2.5か2分の1ぐらいの差はあるわけですから、コスト的にメリットがあるわけです。複写機はコンポーネントでできています。エンジンの部分は非常に高品質、高技術が要求されますので日本で開発と生産を担当します。韓国ではその周辺機器、すなわち紙を置くところとか、最後のフイニッシャーや、ドキュメント置きを担当します。そしてそれらを各々が中国に送って、中国の安いコストでアッセンブルし、世界のマーケットに供給したら、三カ国の強みが活かせるのではないかと提案し、実行しています。私は、これは「日・中・韓の競争と共生の構造」、コンペティティブネスとコーポレーションのストラクチャーと名付け、ぜひモデルをつくりたいなと思って、今やっているわけです。
 但し、未だ品質の問題はあります。韓国人の品質に対する「テチュン」の意識です。ですが、私は絶対に品質をよくして、今言ったモデルを作り上げたいと情熱を傾けています。
 我が社の例が長くなりましたが、韓国のR&Dセンター化は、実現可能性があると思います。諮問委員として、政府指導で優遇税制等のR&D投資インセンティブをもっと仕掛けるように、強く提言しております。しかし、心配な点はまだまだあります。経営者みずから、例えば本田宗一郎さんみたいに菜っ葉服着て自分でドライバー回して汗水流しながら車をつくるなど、韓国人にとっては信じられないのです。又、韓国では大学の進学率が70%と世界でも驚異的な数字を誇っていますが、多くは文科系です。そして大会社で企画とか財務とかをやりたいと願う人が多く、技術系は学生の人気がありません。さらに同じ文系でも汗水流す営業はあまり好まれる職種ではありません。R&Dセンターになるには、私はやはり意識改革とその為の啓蒙活動も大切だと思い、この点も盧武鉉大統領に申し上げております。

韓国経済の課題と日韓FTA
 最後に、韓国経済の抱える課題についてお話します。それは二極化現象です。IT・自動車・家電・半導体を輸出している産業、企業は儲かっています。他の産業、企業は儲かっていません。このように勝ち組と負け組の二極化現象が広がっています。負け組のほうが人数としては圧倒的に多いわけで、実感としての景気回復の足枷になっており、大きな問題だと思います。さらに勝ち組も輸出がドライバーですが、輸出品の中身を開いてみると、部品素材は日本からの輸入品が多いわけです。部品素材産業を今後どう強くするかということが、R&Dセンターを目指すうえでも、本当に大切なキーです。部品素材を扱う中小企業をどう育成するか早急にアクションすべきです。そしてこのためにも日本との交流が、今後さらに重要性を帯びます。日韓FTAの早期締結は、実は私の大統領に対する提案の一つでしたが、ご承知の通り、現状は残念な状況になっています。
 APECでの小泉総理と盧武鉉大統領との首脳会談は、靖国問題、歴史問題、領土問題で、経済問題には触れずじまいでした。定期的に行っている12月の首脳会談もどうなるかわからない状況になっています。

 今年は日韓国交回復40周年の友情年で、700件以上のイベントがこれまで行われてきました。今年の日韓関係をここで振り返ってみましょう。3月の竹島問題、4月の教科書問題で一時、日韓関係はトーンダウンしました。それでも4月の日韓経済人会議では、FTA早期締結が共同声明に織り込まれました。政治は別問題ということで、文化交流はどんどん進み、経済交流も進んできているわけですが、10月の靖国参拝でまた少しトーンダウンし、今日に至っています。この竹島、教科書、靖国問題という政治問題は、大変複雑な面があり、そんなに簡単に解決する話ではないということは、本当に今回十分思い知らされました。しかし、経済、文化というのはどんどん交流が進んでいるわけですから、この交流をもっと強めていく必要があると強く思います。
 この意味でも、日韓FTAというのは早く締結すべきであると確信します。先程の京都の産業貿易会議で、韓国側は、「日本がアジアの中でリーダーシップをとるべきだ。しかるに農業分野で低いオファーを提示したので韓国はテーブルに着かないのだ。」といっていましたが、中国の凄い勢いでの台頭とか、今の世界の情勢を見れば、形にこだわっているときではないと思うのです。

 最後になりましたが、私の拙い話が少しでも皆様のお役に立つことを願い、両国関係が一層成熟し、真のパートナーとして、アジアそしてグローバルに羽ばたく日を信じ、今後とも微力ながら力を尽くしたいと思っております。ご清聴有難うございました。(拍手)



「ケンチャナヨ経営」と「クレヨ経営」=韓・日経営比較

  日本:「クレヨ経営」 韓国:「ケンチャナヨ経営」
経営の特徴 全員合意 問題回避
スピード遅い
質重視の経営
即断即決 問題解決型
スピード経営 リスク・ティキング
量重視の経営
経営スタイル 専門経営者 所有と経営分離
透明経営
後継者は専門経営者
財閥経営 所有と経営未分離
経営が不透明
後継者は子供または親族
経済活動の
本格スタート
1945年の終戦に財閥解体
1952年日米平和条約発効後
1953年南北休戦条約調印後
労働運動の
民主化
1960~70年代労働紛争ピーク、国民所得3万㌦時代に入り労働紛争減少 1987年労働民主化運動スタート、国民所得は未だ1万㌦、労働紛争多発
儒教の影響 企業に対して忠の精神、滅私奉公、運命共同体 親、年長者に対して考の精神、企業に対して忠の精神は薄い
経営手法 3現(現場、現物、現実)主義、TQC(PDCA)による改善運動
きめが細かく品質重視、チームワーク(小集団活動)
農耕民族
非科学的で、エモーショナル 試行錯誤的、待ちの姿勢が強い、シックスシグマ活動の導入、大陸的で(大雑把)品質が弱い、個人プレー(小集団活動が弱い)、放牧民族
教育の考え方 企業教育重視(OJT教育)
他人に迷惑をかけるな!
企業教育にあまり重点を置かない、他人に負けるな!
労働生産性
(2003年)
労働生産性OECD加盟国NO.1 労働生産性はOECD加盟国中最低
R&D投資
(2003年)
1,240億㌦ 140億㌦(1位のサムソン電子から10位の会社のR&D投資合計額がトヨタの6,700億円より少ない)

以  上


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