「IMF以降10年」そして「今」

韓国富士ゼロックス(株)
最高顧問  高杉暢也

1997年の経済危機により会社は倒産寸前、翌年4月に会社再建を命じられ赴任、爾来、丸10年の時が流れ過ぎ様としています。赴任の際の“何故、俺が韓国に!?”の思いが浅学短才であったことを恥じ、今は“韓国は重要なパートナー”の強い思いに変わっています。歴史の生き証人(ビジネスマン)としてこの10年を振り返り、新大統領に期待を寄せると共に“両国のパートナー実現”への思いを綴って見ようと思います。

経済危機の原因

97年夏のタイのバーツ暴落を引き金に韓国内の外資短期資金の引き揚げが韓国経済を危機に陥れました。当時、ある韓国の知人から「韓国経済危機は、通貨危機は現象的原因で、根本原因はこれまでの古い有形資産(土地・労働・資本の生産3要素)重視の30年前の経営スタイルをずっと引きずってきたことにある。パラダイムが変わって情報、知識、技術のような無形資産の時代になっても韓国経済はそれに対応できていなかったことが原因なのだ」と教示を頂き、会社再建の上で大いに役立てることができたことを思い出します。

金大中大統領の経済政策

時の金大中大統領は「民主主義と市場経済政策」を導入し、①マクロ経済、②産業、そして③企業という三点から構造改革を推進しました。
① マクロ経済の構造改革では経済指標をGNPからGDP重視に転換し、規制などを撤廃し外資導
  入(FDI)政策を採りいれました。しかし、中国の台頭や国内の戦闘的な労使紛争、排他的な国
  民感情、相対的に高いコストなどにより期待したほどの外資導入は進まず、雇用創出も促進さ
  れていません。
② 産業構造改革はハードウエアからソフトウエアへの転換です。韓国は世界のIT・ブロードバン
  ド・デジタル国家と称され、金大中大統領(続く盧武鉉大統領も)はソフト産業を重視し、転換
  を推し進めました。しかし、“サービスは只と”言う国民通念、安価な海賊版やコピー商品の流
  通などが蔓延り、まだまだ改善の余地は残っています。
③ 企業の構造改革は財閥経営の改革、即ち、所有と経営分離、経営の透明化です。
  「漢江の奇跡」といわれる経済成長を牽引したのは財閥経営でその強さは即断即決のスピード
  経営です。改善はしてきたものの所有と経営が未分離の閉鎖的経営は労働者の不満や労働
  争議の発生に繋がっています。加えて、腐敗、不正問題も後を絶たず、コーポレート・ガバナン
  スは相変わらずの問題です。

盧武鉉大統領の経済政策

2003年誕生の盧武鉉大統領の経済政策は「北東アジアの経済ハブ建設構想」でした。この経済ハブ構想は①金融センター、②ロジスティックスセンター、③R&Dセンターの三つを実現し、経済発展に繋げたいというものでした。
① 金融センターは香港、シンガポールと比較して、ITインフラなどは勝っているものの英語力、ウォンの未
  国際通貨化などイメージ的に見劣りする観は否めず、実現性はかなり難しい状況です。
② ロジスティックスセンターは地政学的上、もっとも実現性の高い構想です。現在、仁川地区、光
  陽地区、釜山・鎮海地区に自由経済特区を推進中です。実現成功のためには単なるシッピン
  グやトランスポーテーション機能だけでなく、韓国の持つ付加価値をつけることが鍵になりま
  す。
③ 「R&Dと生産の一体化」が韓国の強みである故にR&Dセンターは韓国経済発展のキーです。こ
  れを実現させる為には各企業がもっとR&D投資を増やすこと、政府は優遇税制等のR&D投資イ
  ンセンティブをもっと仕掛けること、そして何よりも大事なことは国民に「物作り」の大切さを意識
  改革する啓蒙活動をすることです。

韓国経済の抱える課題

この110年間、左派政権のもと「太陽政策」は継続されたものの、一方で、産業の空洞化、高失業率が生じ、「失われた10年」と揶揄されるほど経済は伸び悩みました。両政権に共通しているのはスローガンばかりでPDCAが回らず、政策のConsistencyとAccountabilityがなかったことです。現在、韓国経済の抱える課題、それは勝ち組と負け組に分類される「二極化現象」です。これは世界中で見られる現象ですが、韓国は別の問題を抱えています。それはIT・自動車・家電・半導体などの完成品を中国、欧米に輸出している勝ち組企業でさえ輸出品の部品素材は海外(特に日本)からの輸入品に頼らざるをえない産業構造です。部品素材産業を今後どう強くするか、言い換えれば、部品素材を扱う中小企業の育成が焦眉の急です。日韓FTAが求められる所以です。

李明博次期大統領と「実用主義外交政策」

高失業率の経済や「二極化現象」に疲弊した国民は「経済(CEO)大統領」と称される李明博氏を次期大統領に選択しました。
次期大統領は、早速に民主主義、人権の尊重、市場経済原則の価値の上に立ち、実用的な政策を通じて国益を増進するという「実用主義外交政策」を打ち出しました。その実現のために、3大ビジョン・・(1)平和(2)繁栄(3)国格と7大ドクトリン・・(1)北朝鮮の核開発廃棄と実質的変化を誘導する戦略的対北朝鮮政策推進(2)国益を土台にした実利外交の実践(3)伝統的友好関係を土台にした米韓同盟の強化(4)アジア外交の拡大(5)国際社会に寄与する外交(6)エネルギー外交の極大化(7)文化コリア指向を発表しました。

外交通商部長官に柳明桓駐日大使を登用する人事や“今後の韓日関係は未来指向的に進んでいくべきで、韓日が良い関係を築くことが朝鮮半島だけでなく北東アジアの平和にも役立つ”、また“成熟した韓日関係を築くため、謝罪や反省という言葉を使いたくない”の発言などから日韓関係の改善には大きな期待が寄せられています。暗礁に乗り上げている日韓FTA交渉の早期再開も期待されるところです。

“両国のパートナー実現”は「易地思之」の精神で

しかし、これまで金大中大統領も盧武鉉大統領も発足当初は同じようなメッセージをもって出帆したのです。途中、両国の間に波風が立ち疎遠になってしまったことは記憶に新しいところです。今度は保守の「経済(CEO)大統領」ですから革新の前任大統領たちとは違うと思いたいところです。 全くの杞憂ですが“日本は大国なのだからそれなりの振る舞いをするべきだ”という次期大統領の発言には日本人として緊張の感を隠せません。政策にConsistencyとAccountabilityをもってPDCAを回し、確実に実現を図っていただきたいものです。

この10年間、歴史の生き証人(ビジネスマン)として学んだこと、それは「易地思之」と言う韓国四字熟語です。両国のリーダーに、日韓関係の改善には“相手の立場に立って物事を考える”と言うこの精神でことに当たっていただきたいと切に願うところです。(完)

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