サンギョプサル会長とティシュペーパー

企業の発展には労使が良好な関係にあり、共に企業の発展を願う事が大切な点は多言を要する迄もありません。この意味で政府労働部も「企業における労使安定対策」を精力的に推進しています。その場合、企業の資本が何処からこようと、経営者の国籍が如何であろうと変わりはありません。従って労働部も、外国人投資企業経営者の韓国労使関係の理解を深め、良好な労使関係を築くために「外国人投資企業の成功事例」を集めたパンフレットを今年の1月に、韓・英・日語で4500冊を印刷配布し、「対立と葛藤」から「参与と協力」の労使文化定着を期待して、堤川で「外国人投資企業の労使関係模範事例発表大会」をさる3月9日、10日に開催しました。

我が韓国富士ゼロックスは、今年の春闘では「無交渉で賃上げを決める」ほどの良好な労使関係を築くまでになり、上述の「外国人投資企業の成功事例」に紹介され、又「外国人投資企業の労使関係模範事例発表大会」でも事例を発表する機会を与えられました。

その良好な労使関係を築けた理由は1998年4月に着任以来、私が取ってきた「経営の透明性」と「労使の信頼」の方針に基き「労使のコミュニケーション改善」に腐心してきた事にあります。私はこのコミュニケーションを単に「情報を伝える」という次元として捉えず、会社のモットーとしている「強い、面白い、優しい会社」作りの一環として、「話す、見る、聴く、読む、食べる」と言った五感機能全てを活用してきたことです。具体的に取り上げた施策は、日本の富士ゼロックスで行われてきた事を韓国の実情に適合するようにしたものですが、その一部を紹介すると次の様な事です。

1) 会社の業績についてグラフや表で分り易く示し、更に期間中に起きた重要イベントやニュースを隠さず伝える事は一般的に行われていることです。私は、それを「Hot Line」と言うビデオにして四半期に1回発行し、私の思いを社員に伝える様にしました。これは私が韓国語に不自由でしたから、私の日本語で喋った事をハングル文字で字幕に写すことをビデオが可能にしたので、外国人でありながら文字だけという冷たい手段としてではなく、社員に親しみのあるコミュニケーションがとれたことだと思います。言わば「見る社内報」だと言えます。
2) 勿論「読む社内報」は以前と同じく2ヵ月毎に発行していますが、これは従来型の上意下達のコミュニケーションでした。従って、社員との双方コミュニケーションを計るために「Talk Plaza」を年2回開催し、各職場の社員が自由に参加してトップ・マネジメントと意見交換をする「話し合いの広場」を作りました。最初は堅苦しい雰囲気でしたが、回数も増えた今はネクタイなしのカジュアルスタイルで喧喧諤諤、自由な雰囲気の中で、如何に生産性を上げるかの大きな課題や、現場で不満のあった旅費や携帯電話代の小さな課題(実は社員にとってはこちらの方が大きな課題)も議論され、改善に寄与しました。
3) 私は「事実は現場にある」をモットーに、全国津々浦々の営業所を訪問し現場の状況を自分の目で直接、確認していますが、その事により現場の社員一人一人と顔見知りになれ、その後のコミュニケーションを円滑化させています。特に夜、社員と一緒にサンギョプサルと焼酎での会話はかなり本音の意見が聞き出せるもので、いつしか私は「サンギョプサル会長」というニックネームがついてしまいました。これは庶民的会長ということであろうとこれを誇りに思っています。
4) 情報インフラの整備を計り、社員1人に1台のPCを配り、メール活用も双方コミュニケーションの大きなツールとなりました。これによる情報伝達のスピードアップとコミュニケーションの改善は期待以上の効果をもたらし、生産性のアップに繋がっています。
5)労組とは四半期に1回の「労使協議会」の他に、月に1回、労組委員長とフリーディスカッションの場をもち相互理解を深めています。実は当社の「労使信頼」の原点は、同じ儒教の影響を受けながら日本は「忠」に重点が置かれ、韓国では「孝」が中心と言われているものの、韓国にも家族や親戚のように相互に信頼関係があれば、そこに「忠」の精神が働く事を教えてくれた委員長のヒントによるものです。

話は変わりますがティシュペーパーを濡らす方法に、バケツに放り込んで一時に濡らす方法と、一滴ずつ水を垂らして時間をかけて浸透させていく方法があります。前者は一度に濡らす事が出来ますが、物理的に無理があり芯まで濡れないのですぐに乾いてしまうという欠点があります。他方、後者は時間が掛かりますが、一度染み渡るとなかなか乾かないという長所があります。韓国人はせっかちな性格である事を知りながら、敢えて私は「経営の透明化」という事を後者の方法を選んできました。さる3月19日に開催した当社の「労使ハンマウム大会」で労組は「労使無紛争」を宣言しました。これは外国人投資企業としては初めての事だとテレビ・新聞が伝えました。
サンギョプサル会長としてはこの3年間にティシュペーパーを時間をかけて濡らす方法の成果が出てきた事に満足するとともに、方針も施策も間違いなかったと確信しています。

 

韓国富士ゼロックス株式会社
代表理事・会長   高杉 暢也

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