「アジア時代の到来と日韓経済協力の重要性」

金&張法律事務所常任顧問/SJC元理事長
高杉 暢也

<はじめに>
1929年の世界恐慌時、ルーズベルト大統領はニューディール政策をとり、国際連盟は恐慌対策を話し合う世界経済会議をロンドンで開催した。経済学者ケインズは世界デフレから抜け出すのには多くの国が同時に減税や借金による支出を増やすしかないと提言した。その結果、米国では生産は増加、失業は減り、株価は上がった。ところが、生産が恐慌前の水準に戻った1937年、FDRは歳出削減と増税で緊縮財政に梶を切った。先行した金融引き締めもあり、生産は急減、失業は急増して「ルーズベルト不況」と呼ばれる二番底に陥った。

歴史は繰り返すのか・・・・・ギリシャ、スペインと相次ぐ欧州危機の影響で世界経済の減速感が強まり世界経済は脆弱な状態が続いていて金融市場の緊張は高まってきている。米国経済は日本化のリスクが高まってきた。日本経済は円高でデフレが続いている。

再び「ルーズベルト不況」に陥るのか・・・・・しかし、1930年代と大きく違うのは新興国の存在である。 リーマン危機以降の世界経済の急回復は特にアジアの新興国の力が大きい。先進国は世界のGDPの7割弱を占めるが、より実力に近い購買力平価でのシアーは5割強。中国、インド、東南アジアでのシアーは4分の1に迫る。アジアが世界経済を引っ張っていくことは産業革命後はじめてのことである・・・まさにアジア時代の到来である。(日経新聞より)

このことから 21世紀はアジアの時代といわれている このような環境の中、民主主義、市場経済主義、類似の文化を共有する日韓両国の経済協力は大変重要である。そこで日韓経済協力関係の進展を、(1)日韓経済(貿易、投資)状況、(2)日韓経済協力状況から考察し、(3)日韓経済協力は韓国の強小企業と日本の中小企業の連携が鍵であることを強調したい。

(1) 日韓経済(貿易・投資)の状況

➀ 日韓貿易
これまで日韓貿易は300億ドル近い韓国の対日赤字が恒常的になっていた。これは日本から中間財・資本財を輸入し、それらを加工・組み立てて輸出するという韓国の産業構造に起因していた。従って、韓国の輸出が増えるほど対日輸入は増加する傾向にあった。特に、部品・素材の対日赤字が大きい。しかし、よく見ると日韓間では産業内分業型の貿易が進展している。主な対日輸出製品は半導体,石油製品、携帯電話、鉄鋼版、平板ディスプレイ、液晶パネルなど。主な対日輸入製品は鉄鋼版、半導体、プラスチック製品など。即ち、産業内分野の進展により同一品目内の輸出入が行われていた。   ところが2011年に韓国は総輸出の増加(40.9%)にもかかわらず対日貿易赤字が減少(20.7%)した。 これは東日本大震災による一時的な要因もあったが、リーマンショック以降日本の産業構造に変化が生じてきたためと思われる。

➁ 日韓投資
これまで日本企業にとって韓国は余り魅力的な投資先でなかった。それは産業構造が類似しているなどの理由からで、安い生産コストを求めて中国や東南アジアに投資を推進していた。しかし、2005年以降増加傾向を見せてきている。韓国企業の技術力、品質力の向上に加え、リーマンショックや大震災の影響で2011年度は124.8%増となった。
日本企業の韓国への投資形態は次のように分類される(JETROの資料)。
1.製造業の投資
①部品素材の提供(販社、製造)→韓国大手企業への納品・サポート
例:東レ、東芝エレクトロニクス、ダイヘン、ニコンプレシジョン等
②R&D型
例:東レ、アルバック、東芝(ハイニックス)、ジャトコ等
③インフラコストの活用、安全の確保(サプライチェーンの複線化、データ保存)
例:東レ、ソフトバンク
2.サービス業の投資:韓国内需市場の活用(トライアル市場etc.)
例:飲食(ビール、モスバーガー等)、物流、銀行、保険、衣類等
3.第3国へ(大手商社とのタイアップで第3国投資、海外への足場)
例:三井物産&大宇建設(モロッコの石炭火力発電)、帝人
4.韓国のIT環境の活用、ソフトウェア調達
例:DeNA、グリー、KDDI等

一方、韓国企業の日本への投資は販売拠点確保、技術確保を目的とする傾向があった。
主な事例は次のようなものである。
(1)サムスン物産―日本からのステンレス精密財の安定供給を目的に明道メタルを買収(2008年)
(2)ポスコ―日産自動車など関東のユーザーへの供給拠点確保を目的に日産トレーデングと合弁
        (2007年)
(3)ポスティール―韓国向け鋳造用鋼塊製造を目的に壽工業と合弁(2007年)
(4)NHN―NAVERとLive doorのシナジー効果を目的にライブドアを買収(2010年)

(2) 日韓経済協力の状況

①  日韓企業のアライアンス
昨今、日韓企業のアライアンスは下記のような狙いで積極的に行われている。
(1)量産効果・・・新日鉄:ポスコ、 新日本石油:GSカルテックス
(2)量産効果および韓国企業向け販売・・・JFEスチール:東国製綱、 JFEスチール:現代ハイスコ
(3)韓国企業向け販売・・・旭ガラス:韓国電気ガラス、 みずほコーポレイト銀行:新韓金融グループ
(4)安定的調達先確保・・・ソニー:サムスン電子
(5)相互補完・・・三井住友銀行:国民銀行、 JR貨物:韓国鉄道公社
(6)技術補完(クロスライセンス)・・・パナソニック:LG電子、 東芝:LG電子

➁ 第三国における日韓企業連携
上述の「日韓投資形態3.第3国へ」のように昨今、大手商社とのタイアップで第3国投資、海外への足場を創る協力関係が下記の事例のように増えてきた。今後もますます増えてくることが予想される。

(1)中国・・・帝国ピストリング:柳成企業(北京現代自動車などへの販売拡大)、
シークス:イナテック:NLK、(顧客開拓、製造技術確保) 
NTN:韓国フランジ工業(現代・起亜グループの中国生産拠点向け販売)
(2)インド・・・三菱電機:三菱商事:現代ロテム(インド・バンガロール地下鉄向け車両供給)
(3)アルジェリア・・・三菱重工業:大宇建設(大規模肥料製造プラントを受注)
(4)マダガスカル・・・住友商事:大韓鉱業振興社(世界最大級ニッケル鉱山・精錬一貫プロジェクト)
(5)メキシコ・・・三井物産:韓国ガス公社:サムスン物産(メキシコLNGターミナル運営事業)
(6)ぺルー・・・丸紅:SKエナジー(液化天然ガスプロジェクト)
(7)ブラジル・・・伊藤忠商事:日本鉄鋼大手5社:ポスコ(ブラジルの鉄鋼大手CSNから資源子会社ナミザ社株式40%を共同で取得。鉄鋼主原料の安定調達を図る)
(8)モロッコ・・・三井物産:大宇建設(石炭火力発電所の建設)
(9)アブダビ・・・住友商事:韓国電力(発電事業への参画)
(10)インドネシア・・・三菱商事:韓国ガス公社(LNGの製造・販売)

(3)日韓経済協力は韓国の強小企業と日本の中小企業の連携が鍵

冒頭述べたようにアジアが世界経済を引っ張っていくことは産業革命後はじめてであり、まさにアジア時代の到来である。民主主義、市場経済主義、類似の文化を共有する日韓両国の経済協力が重要であることは論を待たない。特にものづくりに精通する両国はその根幹を支える中小企業の育成、協力がカギとなる。これまでの中小企業協力促進の状況経緯は以下の通り。
(1)2000年に入り「部品・素材」や「中小企業」問題を解決するために、産業資源部(現知識経済部)が「ジャパン・デスク」(事務局:野村総研)をつくったり、KOTRAがJETROと協力して日本の中小企業ミッションを招聘したりして努力してきたが、思うような成果が出なかった。
(2)2008年11月に横浜で開催された「新産業・貿易会議」(日韓経済人会議の下部組織)では日本側は「少子化と企業経営」というテーマで(1)女性の活用と(2)資格者の活用を提案、韓国側は「日韓企業間協力の強化」というテーマで「中小企業の共同開発基金創設」を提案した。以来、「議論より実践」をスローガンにタスクフォースの提案は地道な活動を推進。更なる検討を加えた提案が第42回日韓経済人会議(2010年4月、岡山で開催)で発表された。

<韓国側タスクフォース>
・対日貿易・投資活性化提案
・部品素材産業協力提案
<日本側タスクフォース>
・人材交流提案
・資格相互認証(IT技術者、観光ガイド、介護士、環境士)提案

更に、これらのタスクフォースの提案事項は実現に向け推進中で、第43回日韓経済人会議(2011年9月、ソウルで開催)、 第44回日韓経済人会議(今年5月、大阪で開催)でもその進捗状況が継続されて確認されている。併せて、これらの推進には「日韓FTA(EPA))締結が焦眉の急であることも提案されている。
具体的には、中小企業のR&D(研究開発)に日本の退職技術者を活用する韓日協力モデルが拡大している。韓日産業技術協力財団によれば2011年度に韓国の52社の中小企業を支援したという。

(3)日韓産業技術協力財団内にある「日韓中小企業交流センター(JK-BIC)」( http://www.jk-bic.jp/ )がインターネットを活用して日韓の中小企業のマッチングを推進してきているが、次のような成果を得ている。
・2009年は7社のマッチングのうち4社が成約となった。
・2010年は7月時点で3件の成約となっている
(1)日本N社(京都)、韓国E社(大田)・・・技術譲渡を含む機械輸出(日本から韓国へ輸出)
(2)日本T社(長野県)、韓国N社(仁川)・・・LED照明調達(韓国から日本の代理店経由の調達)
(3)日本H社(兵庫県)、韓国G社(京畿道)・・・ビニールハウス調達(韓国から日本へ輸出)

(4)この6月26日にこれまで初めてとなる大韓商工会議所とSJC/JETROの共催で「中小企業成長のための日韓企業協力のあり方について」のセミナーが開催された。
ここでは具体的な政府、公的機関、日韓産業協力財団、金融融機関、企業などの協力対策や課題などが浮き彫りにされた。
例えば、下記のような提案がされた。
(1)日本の中小企業の韓国進出支援の強化では、日本側は国際協力銀行(JBIC)の海外進出ローン支援を韓国も対象にすべきである。韓国側は特別与信・保証ファンドの確保などを政府、金融機関が連携して支援すべきである。
(2)韓国企業の日本進出を活性化では、日本側は韓国企業の日本進出が産業空洞化や地域機材活化に役立つという認識をもっとPRすべきである。韓国側は日本市場への進出を技術習得の場として活用すべきである。
(3)知的所有権保護の強化では、日本側は技術流出に対する両国間の誤った先入観を排除して協力を活性化する。韓国側は日本企業が安心できる制度の整備・PR。

このように両国の中小企業協力促進は課題も多いが着実に進んでいる。そしてさらなるスピードアップが求められている。

<終わりに>
「開発から生産まで自社で抱える」日本型の事業モデルは時代遅れになってきている。グローバル化が加速している今日、国も企業も相互の協力なしに単独では物事は完結できない。グローバル化とはそれぞれの強みを活用することである。そして今、まさにアジア時代の到来である。
民主主義、市場経済主義、類似の文化を共有する日韓両国は相互に競争し、協力し合あってアジアでのイニシアティブをとっていかねばならない。その成功の鍵は経済協力、就中、韓国の強小企業と日本の中小企業の連携であることを強調したい。

2012.6.28

戻る