「北の食」を食す

黒田勝弘

南北首脳会談後、南北和解ムードでマスコミを中心に何かと北朝鮮のことが話題 である。日本では今も朝鮮総連の「朝鮮画報」という雑誌は出ているのだろうか。ぼ くらの間では昔から、北のいいところばかりを宣伝的に紹介することを「"朝鮮画報 "的」とよく皮肉ったものだが、韓国では今、その朝鮮画報的なものがマスコミなど にあふれている。

 南北首脳会談があったころ、「どれ、われわれも北ブームに便乗するか…」と、 知り合いの韓国人の案内で昼飯時新羅ホテルの下にある有名な「平壌冷麺」の店にで かけた。屋号もそのまま「平壌冷麺」だが、超満員だった。時節柄、ぼくらのように 「北の食」を思い出して「どれ…」と食べにくる客が多いようだ。

 その後、さらに時流に便乗して、これはぼくの持ちネタで、今度はこちらがくだ んの知り合いを案内して「平壌マンドゥ」を食べにいった。中心街のプレスセンター 裏のブラックホールのようなビルの谷間にある店「以北マンドゥ」で、迷路の奥のど こか秘密めいた面白い店だ。

 「マンドゥ」とは韓国語でギョウザのことである。この「平壌マンドゥ」は手の 平ほどもあるワラジのような大きさが特徴だ。中身にはひき肉のほかモヤシが入って いるのが珍しい。この蒸したのがドーンと出てくるから、二つも食えば腹一杯である 。

 「北の食」としては犬肉料理もそうである。こちらはこのところ、「どれ…」と 誘ってくれる者がいなくて食していない。韓国では「ポーシンタン(補身湯)」だが 北朝鮮では「タンコキ」といっている。直訳すれば「甘肉」ということになろうか。  誘われれば断らないが、こちらから好んで食べたいとは思わない。余談でいえば 、犬肉料理は一種の心理的料理で、食べた男は必ず「食った、食った」といいたがる 。この自慢心理は精力誇示に通じている。

 ところで以上、紹介した三つは「北の食」の代表的なもので、かつ大衆的なもの だ。しかしぼくはいずれも今のところそんなうまいとは思わない。「平壌冷麺」の冷 麺だって、超満員だったがとくにうまいという感じはしなかった。好みの問題だから 仕方ないか。平壌の国営「玉流館」の冷麺はみんな「うまい、うまい」というが、ど うなんだろう。

 「北の食」では以前、金丸訪朝団が平壌を訪れたおり、故金日成主席との宴席で 「ソガリ刺し身」が出て、金日成氏のお好みとして話題になったことがある。「ソガ リ」は朝鮮半島固有の淡水魚で、辞書を引くと「高麗ケツギョ」とある。薄茶の体色 にコイのようなかたちのすこぶる美形である。

 この刺身も韓国の田舎で食ったことがあるのだが、身を刻んで塩とごま油のタレ につけ、菜っ葉につつんで食ったので、その味の印象は薄い。金日成氏が好んだ北朝 鮮風の刺し身はどんなものだったのか。金丸氏も今は故人で聞くわけにもいかない。

 <略歴>
 くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信外信部を 経て、現在、産経新聞ソウル支局長。

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