盛況の復活・楽劇

黒田勝弘

韓国では近年ん、韓国版大衆ミュージカルともいうべき「楽劇」が人気を呼んでいる。 大衆歌謡を素材に、新派調の人情話を織り込んだもので、分かりやすくて気楽に楽しめる。

「歌劇」は日本統治時代に生まれ流行ったそうで、いくつもの劇団が地方回りし人気 を博したとか。解放後も続いたが映画が一般化するとともに消えていった。これには 朝鮮戦争(1950-53年)による世の中の荒廃も影響しているのだろうか。

ところが数年前から復活し、ソウルの大劇場である「芸術の殿堂」や「世宗文化会館」 などで公演し、えらく客を集めている。復活第一弾は「芸術の殿堂」での「番地のない 居酒屋」で、念のためと出かけて見たのだが満席だった。「番地のない居酒屋」は韓国 歌謡の代表的なナツメロと演歌である。劇中ではこのほか各種のナツメロが登場し、歌 のイメージで芝居を盛り上げ、観客も手拍子でそれに加わる。

「楽劇」はその後、毎年のように公演があり、演題はいずれも演歌のタイトルそのまま になっている。今年は「さらば三十八度線」で南北離散家族の人情話を素材にしていた。 演歌の大御所、周玄美(チュ-ヒョンミ)が主演だったこともあって大層な人気だった。 昨年は「不孝者は泣きます」だったかな。いずれも韓国之ナツメロファンには見逃せな い出し物だ。

このオールドファッションの「楽劇」が人気なのは、中高年の客が押し寄せている事か らも分かるように、若者中心の娯楽社会から疎外?された中高年の心情にぴったりだか らである。ヒマとカネに余裕ができた中高年層が、安心して楽しめる大衆的な公演モノ として人気を集めているのだ。

今年の秋夕(旧暦八月十五日の仲秋節)は四連休でソウル一人暮しの日本人などは時間 をもてあます。ちょうど「世宗文化会館」で楽劇「アリラン」をやっていたので、R席 で大枚5万ウォン(五千円)をはたいて見に行った。これまた中高年で満席だった。

ストーリーは1926年に制作された無声映画「アリラン」を素材に、解放後にその巡回講 演をやっていたプロダクションの話。

フィルムの故障で映画がやれなくなったため、プロダクションの一同が変わりに映画と 同じ話を芝居でやるという、いわば劇中劇になっていた。映画「アリラン」がある和の 抗日ドラマなため、日本人の警官が登場したり韓国では今なおごく一般的ないわゆる 「日帝モノ」という話だった。

ただ、冒頭で調子のいいナツメロ「大地の港」が出たため、大いに期待したにもかかわ らずナツメロ演歌がほとんど出ない。演題「アリラン」にもかかわらず民謡アリランも 出ない。客が手拍子をやらなければ盛り上がらないではないか。五万ウォンはちと高か った。初出演の北朝鮮からの亡命女優、金恵英嬢はがんばっていたが。

 <略歴>
 くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信外信部を 経て、現在、産経新聞ソウル支局長。

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