幻想の黄色フグ

黒田勝弘

 この冬、金鍾泌・韓日議連会長とソウル駐在日本人記者との夕食会があった際、食談義に花が咲いて、金鍾泌会長の方から「ファンボク」の話が出た。「ファンボク」とは「黄色フグ」のことで、日本では「メフグ」というとさる文献に出ていた。韓国の食通の間で珍味として好まれている。

 白い腹の部分が黄色みがかっているため、そういう名前になっている。近年、漁獲量が減っていたが、資源復活のきざしがみえるとマスコミが伝えている。西海岸の沿岸や河口付近に生息し、五|六月に産卵のため川を上ってくる。ソウル近郊では臨津江の河口付近で網を張って獲っている。

 金鍾泌会長は「五月になったらファンボクに招待する」と約束してくれたがその後、いっこうに連絡がない。政局多忙でフグどころではないようだ。そこでぼくら食の同志だけで独自に「ファンボク」を追求しようとなった。季節を逃せば来年まで待たねばならない。

 まずどこで食わせてくれるか。これは「テレビ朝日」の宮川支局長の調査で分かった。ソウルの北西の漢江の下流に近い「陵谷」に専門店があることを突き止めた。

 彼は商売がら絵になるモノが欲しい。取材を兼ね「ファンボク漁」の現場を撮影したいと、その店に出かけて漁師の紹介を頼んだのだが断られ、料理だけを食って帰ってきた。漁の現場が南北軍事境界線付近でどうやら、撮影はまずいといったことのようだ。

 以上の報告を受けたぼくは、ただちに店に出掛けた。魚にめっぽう詳しい釣りの専門家である西日本新聞の田代支局長を誘った。余談ながら、彼は韓国釣り紀行をモノにしようと毎週のように韓国の各地に出掛けている。先日はソウルの自宅マンション前の漢江で、体長三十センチの「ソガリ(こうらいけつぎょ)」を釣り上げたとか。

 店は「ヌンゴク・カッチボクチップ」(¥デンワマーク¥031・970・7100)で、ソウルから車で四十分ほどだった。道路沿いの雑居ビルの二階にあり、軒下のガラス張りの水槽でフグが数十尾泳いでいた。体調二十センチほどで、たしかにおなかの部分が黄色い!

 夕刻だったため、夕闇の中の「ファンボク」の姿は、その黄色ゆえに実に幻想的であった。食うのは惜しい。

 といっても求道者(?)としてはやはり食わねばならぬ。珍しいものだから、メニューにあるものほぼ全部を注文した。刺し身からナベ(ちり)、皮、スユク(水肉?)、チム(蒸し和えもの?)などなど。途中で貴重な上にも貴重な「白子」も出てきた。ただ刺し身はいささか肉質がかたい。そこで一部をナベでシャブシャブにしたがこれが珍味であった。プルコギもあるというが、こいつは別の店で普通のフグで食って失望しているので遠慮した。

 すべてに味はどうという感じではなかったが、「ファンボク」という名前ゆえの付加価値には大いに満足したのでした。

<筆者プロフィール>
 くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信外信部を経て、現在、産経新聞ソウル支局長

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